「…は?」
練習も終わって誰もいない筈のグラウンドに僕はいた。練習は今日もハードでくたくただと言うのに何なんだ、と僕は捕まれている自分の腕を見ながら文句を垂れる。しかし、おあいにくさま掴んでいる張本人はそんなことは全く知らない、というよりかは気づくそぶりさえ見せない。僕はその態度に若干の苛立ちを覚えゆっくりと名前を呼んだ。
「…白竜?」
「…」
それでも白竜は何も言おうとしない。寧ろ先程よりも口を閉ざしたようにも見えた。僕はその彼の様子にはあ、と溜息を吐き、僕の腕を掴んでいる手を解こうとした。細々とした指に触れると一瞬ぴくりと跳ね意外とあっさり解く事が出来た。一体何の真似だったんだ。僕はそう思い無言でグラウンドを後にしようとした、その時だった。
「待てよ。」
今まで無言だった白竜の声が僕の背中を撫であげた。そして気付いた時にはもう遅い、と言うのは多分こういう時に使うのだろう。
「…んん?! …んちゅ…」
あと一歩で緑の芝生から出ようとしていた僕の身体は緑の芝生から一歩も出ようとしていない白竜の腕の中にすっぽりと埋まり、僕の唇は今まで無言を貫き通していた白竜の唇と重なっていた。
僕らはただ唇と唇を重ねるという幼稚なキスを幾分続けていた。一体何秒間こうして唇と唇を重ね合っていたのだろうか。キスをするだけの白竜に痺れを切らした僕はどんっと白竜の胸を押し退けた。そして、目の前でキスをする前の表情と全く何処も変わらない彼の顔をキッと睨みつけた。
「な、何…するの…?」
「……いつも、こんな事してんの?」
え、と僕は拍子抜けた声と顔を見せた。けれど白竜は一歩僕に近づき再度同じ事を口にした。僕はまたキスされるのかと思い一歩後ろに後ずさる。すると、冷たい感触が僕の背中を襲った。いつもだったらそれを目がけてボールを蹴りあげる場所、サッカーゴールだ。そしてそれをチャンスだと思ったのか白竜が勢いよく膝を僕の脚と脚の間に挟み僕の動きを塞いだ。そしてまたゆっくりと口を開く。
「お前…いつもこうして、色んな男とキス、する訳?」
「…え………」
ドクン、と胸が大きく跳ねる。
真っ直ぐ僕を見てくるその目が嫌で僕はぷいと顔を背けた。
「…っ、シュウ、」
白竜に名前を呼ばれ全身がぞわっとした気持ちが悪い気分になった。それと同時に少しきゅうと胸も痛くなった。
「なっ、何だよ…悪…い?」
実際僕は先程のキスがファーストキスではない。その前にも白竜が言ったように色んな男とこうして唇同士を重ね合ってきた。向こうから来るときもあるし、自らした時もある。でも、それには全て理由があった。
「シュウ…」
白竜が悲しそうな表情をした。その表情を見た途端、何かが僕の中から溢れ出した。それは今まで隠し続けてきた思いかもしれないし、色んな男とキスを続けてきた虚しさかもしれない。もしかしたらそれら全てかもしれない。
「んっ…んんっ…ちゅ…」
僕は斜め上にある唇に2回目のキスをしていた。
「んっんっ…ちゅく…」
先程よりも激しく、求めるようなキスを。
けれど、それでも僕の心が満たされる事はないんだ。どんなに好きな人と唇を重ね合っても、舌を絡めあっても、唾液を共有しようとも愛のないキスなんてキスなんかじゃない。ただの重ね合う、というそれだけの行為で以上も以下もない。
それなのに僕は白竜にそんなキスをしてしまうんだ。こんなに、汚い愛のないキスを。
「ちゅう…ん、はぁっ シュウ!!!」
交じり合う水音がいやらしく響く中。突然白竜に名前を呼ばれた。僕は没頭していたキスをやめ、涙目になっている白竜を見つめた。
「お前…、もっと…自分を大切にしろよ…頼むから………」
ズキン、と胸が裂けそうになる。
「こんな、キス…すんなよ…」
そんな見苦しい痛みをごまかすかのように僕は白竜の胸を突き飛ばした。
どうして、どうしてこんなにも苦しいんだろうか。
「君に…君に何が解るって言うんだよ!!」
ただ好きな人に気持ちが伝えたいだけなのに。
どうして、隠さなければいけないのだろうか。
君に気づかれてはいけないこんな気持ちをどうして僕は大切にしているんだろうか。
End
練習も終わって誰もいない筈のグラウンドに僕はいた。練習は今日もハードでくたくただと言うのに何なんだ、と僕は捕まれている自分の腕を見ながら文句を垂れる。しかし、おあいにくさま掴んでいる張本人はそんなことは全く知らない、というよりかは気づくそぶりさえ見せない。僕はその態度に若干の苛立ちを覚えゆっくりと名前を呼んだ。
「…白竜?」
「…」
それでも白竜は何も言おうとしない。寧ろ先程よりも口を閉ざしたようにも見えた。僕はその彼の様子にはあ、と溜息を吐き、僕の腕を掴んでいる手を解こうとした。細々とした指に触れると一瞬ぴくりと跳ね意外とあっさり解く事が出来た。一体何の真似だったんだ。僕はそう思い無言でグラウンドを後にしようとした、その時だった。
「待てよ。」
今まで無言だった白竜の声が僕の背中を撫であげた。そして気付いた時にはもう遅い、と言うのは多分こういう時に使うのだろう。
「…んん?! …んちゅ…」
あと一歩で緑の芝生から出ようとしていた僕の身体は緑の芝生から一歩も出ようとしていない白竜の腕の中にすっぽりと埋まり、僕の唇は今まで無言を貫き通していた白竜の唇と重なっていた。
僕らはただ唇と唇を重ねるという幼稚なキスを幾分続けていた。一体何秒間こうして唇と唇を重ね合っていたのだろうか。キスをするだけの白竜に痺れを切らした僕はどんっと白竜の胸を押し退けた。そして、目の前でキスをする前の表情と全く何処も変わらない彼の顔をキッと睨みつけた。
「な、何…するの…?」
「……いつも、こんな事してんの?」
え、と僕は拍子抜けた声と顔を見せた。けれど白竜は一歩僕に近づき再度同じ事を口にした。僕はまたキスされるのかと思い一歩後ろに後ずさる。すると、冷たい感触が僕の背中を襲った。いつもだったらそれを目がけてボールを蹴りあげる場所、サッカーゴールだ。そしてそれをチャンスだと思ったのか白竜が勢いよく膝を僕の脚と脚の間に挟み僕の動きを塞いだ。そしてまたゆっくりと口を開く。
「お前…いつもこうして、色んな男とキス、する訳?」
「…え………」
ドクン、と胸が大きく跳ねる。
真っ直ぐ僕を見てくるその目が嫌で僕はぷいと顔を背けた。
「…っ、シュウ、」
白竜に名前を呼ばれ全身がぞわっとした気持ちが悪い気分になった。それと同時に少しきゅうと胸も痛くなった。
「なっ、何だよ…悪…い?」
実際僕は先程のキスがファーストキスではない。その前にも白竜が言ったように色んな男とこうして唇同士を重ね合ってきた。向こうから来るときもあるし、自らした時もある。でも、それには全て理由があった。
「シュウ…」
白竜が悲しそうな表情をした。その表情を見た途端、何かが僕の中から溢れ出した。それは今まで隠し続けてきた思いかもしれないし、色んな男とキスを続けてきた虚しさかもしれない。もしかしたらそれら全てかもしれない。
「んっ…んんっ…ちゅ…」
僕は斜め上にある唇に2回目のキスをしていた。
「んっんっ…ちゅく…」
先程よりも激しく、求めるようなキスを。
けれど、それでも僕の心が満たされる事はないんだ。どんなに好きな人と唇を重ね合っても、舌を絡めあっても、唾液を共有しようとも愛のないキスなんてキスなんかじゃない。ただの重ね合う、というそれだけの行為で以上も以下もない。
それなのに僕は白竜にそんなキスをしてしまうんだ。こんなに、汚い愛のないキスを。
「ちゅう…ん、はぁっ シュウ!!!」
交じり合う水音がいやらしく響く中。突然白竜に名前を呼ばれた。僕は没頭していたキスをやめ、涙目になっている白竜を見つめた。
「お前…、もっと…自分を大切にしろよ…頼むから………」
ズキン、と胸が裂けそうになる。
「こんな、キス…すんなよ…」
そんな見苦しい痛みをごまかすかのように僕は白竜の胸を突き飛ばした。
どうして、どうしてこんなにも苦しいんだろうか。
「君に…君に何が解るって言うんだよ!!」
ただ好きな人に気持ちが伝えたいだけなのに。
どうして、隠さなければいけないのだろうか。
君に気づかれてはいけないこんな気持ちをどうして僕は大切にしているんだろうか。
End
君になんか教えてあげない