小説 | ナノ


(高校生パロ)



まだ真新しい制服に身を包みながら俺は新たな出発地点に立っていた。歓喜からなのか緊張からなのかは解らないが両手の拳は震えている。いや、多分、緊張だろう。俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。


桜咲く春。俺達は高校生となっていた。


入試の時こそはまだここに通う事になるなんて夢にまで思わなかったがこうして実際校舎までの道を歩いているとやっと自分も高校生なのだと実感する。その感情はやっぱり新鮮であれ程緊張していたのに今は少しだけそんな緊張も解けたような気がした。俺はその胸の高鳴りを噛み締めるように一歩一歩歩いていった。
と、やっと落ち着きを取り戻した俺の心臓だが。後ろから聞こえて来る聞き慣れた足音(と、言うよりは駆け足の音)が一瞬にして俺に緊張感を取り戻させてしまった。


「…!」


まさか。と俺の頭が軽くパニックを起こし始める。高陽に浮かれていた足は一刻も早くあの足音から逃げなければ、と動きを早くした。しかしやっぱりこれは昔からのあれなのか。俺の体は焦りとは裏腹に後ろからかけられてしまった声に反応しぴたりと動きを止めてしまった。俺の馬鹿。


「風丸!!」


後ろから俺を追いかけてきたのは小さい頃からずっと一緒にいて多分俺の人生を語る上では今までもこれからも必要な幼なじみ、円堂守だ。俺はそんな大切な幼なじみにぎこちない笑顔を浮かべながら返事をした。すると、奴は何が嬉しいのかもう幾度と見てきた飛び切りの笑顔をこちらに向けながら駆けよってきた。


「せっかく向かえに行ったのに先に行っちゃうんだもんなー。」
「…円堂が起きるのが遅いからだ。入学早々遅刻はこっちこそごめんだからな。」


飛び切りの笑顔のまま置いていかれた事に文句を垂れる幼なじみを俺は適当にあしらいながら先を行く。
全く今1番会いたくなかった奴に1番最初に会ってしまうなんて。
でもきっとこんな事を言ったってあの幼なじみには何も通じないのだろう。俺が今さっき吐いた嘘だって、何故1番会いたくない理由だって。


「風丸!」


少し先を歩く俺の背中に円堂の声変わりをして少し低くなった声がかけられる。俺はその声にぴくりと肩を揺らし、ゆっくり幼なじみの顔を見た。するとやっぱりそこにあるのは見慣れた飛び切りの笑顔。嫌な予感に顔が真っ赤に染まった。


「髪、短いの似合うな!!」


高校入学と同時にばっさりと切った俺の青い髪が不具合に桜に交じる。
ああ、これだから君には1番会いたくないんだ。俺が1番気にしていることをこうも真っ直ぐぶつけてくるから。


「すっげー可愛いぞ!」


それでも少し不安だった短い髪が好きになってしまうのは春だからだろうか。


「ばっ!!ばかっ!声がでかい!!」


俺はピンクに短い青を交じらせながら後ろを歩く幼なじみの隣に行くんだ。






End

可愛い君へ




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