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ピピピッ
机の上に放り投げておいた携帯が初期設定のままのメール着信音を部屋中に鳴り響かせた。俺は怠い体を無理矢理携帯に近づけた。そして送り主を確認しようとディスプレイに浮かびあがっている青白い文字を見て「え、」と小さく声を漏らした。


「綱海、さん?」


一体どうしたんだろうか、こんな急にメールを寄越すだなんて。いつもは「メールなんかより直接会うのが1番だろ。」とか言っている人なのに。まあ兎に角、こうしてメールが届いたのはあの人に何か合ったに違いない。俺は直ぐさまメールの内容を確認した。
メール確認画面まで携帯を操作して俺は今日で2回目の驚きの小さな声を出した。なぜならそこに広がっていたのは真っ白な背景にぽつりと3文字『暇だ。』とのみ書かれていたから。えーと、つまり、どういうことだ?綱海さんはただ単に暇だから俺にこうしてメールを送ってきたという訳なのだろうか。俺はそこまで考えていや、と首を捻り直した。それだったら余計におかしいじゃないか。あの人、綱海さんが暇だからという理由でメールを送るのだろうか、むしろ暇だったら海でサーフィンなどあの人は暇つぶしなんて星の数ほど知っているに違いない。そんなことを悶々と考えていたら何となく心配になってきた。俺はメールの返事に会話が噛み合っていないが『どうかしたんですか? 暇だ、なんか先輩らしくないですよ?』と返信をした。
すると直ぐに返事が返ってきた。『何もすることがねぇ。』またまたあの人らしくない。俺もまた直ぐに返信をした。
こんな感じで暫くメールを続け、綱海さんがあんなことを言った理由が何となく分かってきた。彼曰く天気が不安定でもうそろそろ雨が降ってくるらしい。そしたらサーフィンも出来ないし、外に遊びに行くことも出来ない=暇だ。ということだったらしい。なんだか理由を聞いたら拍子抜けしてしまった。そんな理由だったなんて。まあとりあえず綱海さんがおかしな病にかかってしまったということではなさそうだから安心した。
それから安心して余裕が出来たのかなんなのか俺は無意識にフッと部屋の窓を覗いてみた。そこにあるのは広々とした澄み切った青。いい天気を絵に描いたような天気だ。こんな天気なのに本当に雨など降るのだろうか。そんな疑問さえ浮かぶ。と、その時。突如黒い大きな雲が流れてきてぽつりぽつりと大粒の雨を降らしてきた。


「…嘘、」


まさか本当に降るだなんて。と、それと同時に携帯がピピピッと鳴った。勿論相手は綱海さんだ。


『な?雨降ってきただろ。』


ザー、ザー、と小降りだった筈の雨がいつの間にかに土砂降りになっている。俺はそんな雨音に耳を傾けながら指先からメッセージを紡ぎはじめる。そしてたった4文字のメッセージを土砂降りの中に送信する。


「…、ずるい、ですよ…」


土砂降りの所為で電波が通りにくくなった俺のメール。早く届いて欲しいのに。早くあなたに読んで欲しいのに。それでも雨はより一層強まり電波は段々と弱くなっていく。そしてついには「送信出来ませんでした。」の文字が。
まるで俺自身だ。綱海さんはどんな時も真っすぐ思いを伝えてくれるのに俺はいつも伝わりにくい方法でしか伝えられない。あなたを傷つけていてばかりなんだ。


『会いたいです。』


こだまするのはあなたの笑顔。
届け、俺の思い。





End

雨の日は電波が通りにくい




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