小説 | ナノ


フィールドの上を、僕の前を、視線の中を優雅に駆け回る二つの桃色を知らず知らずのうちに僕は追いかけていた。
捕まえようったって霧のように掴み所のない貴方は上手くいかなくって、それが余計に腹経って。あんなに綺麗だと思っていた桃色さえもくすんで見えた。だからかどうかは解らないし、僕の知ったこっちゃないことだが、いつの間にかに僕の言葉は辛辣に貴方に突き刺さるようになっていた。


「なんで二つ結びなんかしてるんですか。」


部活終わりの更衣室内。
片付け当番で帰りの支度が遅くなった僕ら以外は誰もいない。
そんな中、僕は一人急ぐように更衣を済ます霧野先輩に下らない質問を投げ掛けた。先輩もそんな質問に戸惑いとも呆れとも言えるような表情をしながら「え?」と返す。その返事に厭らしい笑みで「だから、」と続けるが、内心舌打ちを打ちたくなるくらいイライラした。
今、自分が聞きたいのはそんな貴方の戸惑いじゃない。どうして女でもあるまいのに二つ結びなんかしてるのかってことだ。それ以下でも以上でもないのにどうしてそんなに戸惑う?理由を答えればいいだけじゃないか。それともなんだ答えにくい理由なのか?
僕はグイっと憎たらしい桃色を掴んだ。


「どーして、二つ結びなんか、してるんですか。男のくせに女みたいな髪型なんかして変態ですね。」


口から飛び出す言葉は全て鋭い刃を持ったナイフに変貌し、貴方に突き刺さる。僕が貴方に投げ掛けたいのはこんな無機質なものじゃないのに出てくるのは冷たい。そして、そのナイフは僕さえも傷付け始めるんだ。
僕は更に強く先輩の髪を掴んだ。


「言いたいことはそれだけか、狩屋。」


霧野先輩はただ一言そういうと冷たく僕の手を払いのけた。するりと、離れる僕の手を見て改めて自分の弱さを感じる。
ああ、やっぱり僕は貴方を捕まえることはできないんだ。


「……神童が、似合うって」


何時だってそうだった。
貴方は霧のように僕の周りを真っ白に取り巻いてしまう。それがうざったくて、うざったくて払い除けようとするんだけど、掴んだ瞬間に消えてなくなっていくんだ。その度に言い様の無い虚無感に襲われる。掴んだ感触も手のひらの中にも何もない。あるのは貴方を掴めなかった僕の弱さだけ。


「…………依存症」
「それでも構わないよ」


僕の穴だらけの手のひらじゃ貴方を捕らえることなんで出来やしない。


「嫌いだ、貴方なんて」


穴を埋めるのに弱さじゃ直ぐに取り溢れちゃうんだよ。


「だいっきらいだ」


ほら、泪が一筋




(依存症じゃ人を愛せない)




End

女神依存症




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