小説 | ナノ


2012年12月22日、地球は滅びる。
マヤの予言とか何やらの信じ難き噂が日本中、いや世界中を飛び回った。が、そんな予言は見事に当たらずに西暦は2013年へと突入した。
何人の人間が無事に2013年を迎えられたと安堵するだろうか。多分、マヤの予言が外れたことを安堵した人間は非常に少ないと思う。むしろ、また新たな年をこうして迎えられたことを安堵する人間の方が遥かに多い気がする。なんせ自分もそっちの類いの人間だからだ。マヤの予言が当たるなんて本当に信じてなんかいなかった。
だけど、信じてなんかいなかった、けど。
心のどこかでは、不安定な気持ちが居座っていた。


「だからお願いします!先生!」


必死に頼めば分かってくれるはずだ。必死になっている人間を見て心が動かない人なんかいないはずだ。もしいたら相当の鬼だ。


「宿題やっていないの許してください!!部活に出させてください!!」


目の前で担任の先生がにんまりと笑った。


「ほう、マヤの予言で地球が滅亡するかもしれないから宿題をやっていないと言うのか。お前にしては中々面白いことを言うじゃないか。…そうだな…そんなに必死に頼むなら聞き入れてやらないこともない。よし。いいだろう。」
「!!先生…!!」
「+反省文をつけてやろう。…ったく、下らん嘘つきやがって。」


目の前が真っ白になるってこういう事を言うんだろうな。
半田真一、14歳。
冬休みの宿題をやってこなかったため(下らない言い訳を言ったため)絶体絶命のピンチです。

必死になっている人間を見て心が動かない人なんかいないはずだ。もし、いたら相当の鬼か、必死になっている人間が相当の


「バカだよねぇ。」
「うっさい!もうそれ以上言うな!」


目の前に積まれた大量の宿題達の間から松野が呆れた顔を覗かせながらそう言った。
あのあといくら許しを乞おうとしても頑固な先生が許してくれるはずもなく、一切手をつけてない宿題+反省文を今日中に片付けなくてはならないことになってしまった。そして、終わる見通しの無い宿題を前にこうして松野に手伝ってもらっている訳だ。


「本気でマヤの予言信じてたの?」


突然、得意な数学をサラサラと解いていく松野がこちらを見ずに聞いてきた。


「なわけ。」


俺も別段わざわざ手を止めたりなどせずにそう答えた。
宿題をやっていないことをマヤの予言の所為にするくらいだ。まともに受け止めていたりなんかしてなかった。ただ、そんなことが本当に起きたら嫌だなあくらいだった。そんなことが本当に起きたらどうしようって。
どうやって、何とかして、
先程までサラサラと動いていたシャーペンの影がピタリと止まった。


「僕は信じてた。」


ぽつりと、松野はそう言った。


「へ」


予想外の言葉に間の抜けた声が出てしまった。


「な、何だよ。いきなり。信じてた、って、マヤの予言を?」
「うん」
「はあー?あんなん嘘に決まってんじゃん。」


はは、と乾いた笑い声が零れる。
いきなり、突然、何を言い出すんだよ。マヤの予言を信じてた、なんて。また冗談ばかり言って。あんな信じられない予言、今さら誰も信じるはずないだろう。それもよりによって中学二年が信じるなんて。馬鹿野郎もいい加減にしろってんだ。そういうの中二病っていうんだぞ。
なのに。
きっと松野はまた冗談を言っているのに。
なんで、そんなに真剣な顔をしているんだよ?


「も、もうやめようぜ。宿題、やらなきゃ…」


普段なら冗談だって笑い飛ばせるのに。そんな顔するから笑い飛ばせるものも笑い飛ばせないだろ。


「ね、松野」
「もし、半田がいなくなっちゃったらって。」
「………へ………」


マヤの予言なんか信じてなかった。
信じてなんかいなかったけど。


「地球が滅亡なんかしなくても半田がいなくなったらやだなあ、って」


もし、そんなことが起きたらどうしようって思ったりしていた。


「半田と一緒にやりたいことまだまだたくさんあるのに。まだまだ半田と一緒にいたいのに。半田がいなくなったらやだ。」


俺がいない世界。
松野がいない世界。
俺達が離れ離れになってしまうそんな世界。
そうなってしまったらって考えたら、凄く怖かった。
自分が死ぬよりもそっちの方がずっとずっと怖かった。
そんな不安がずっと俺を支配していた。


「…………うん。」


淡いオレンジが教室を包んだ。窓の外には去年と変わらなず太陽が浮かんでいた。


「はーんだ」
「…なに」


解き終わった数学の問題集。白紙の反省文。


「好き」


自分でも凄くバカだなあと思うし、どれだけだよ、とかそこら辺を歩いているバカップルと何ら同じじゃんとも思う。
だけど、それでも。


「ばーか」


地球が滅亡するよりも、君がいなくなってしまう方が何倍も何十倍も怖いんだ。


それくらい、今年も君が好き

大好きなんだよ。




end

嘘っぱち絶望論




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