小説 | ナノ


一瞬、「あ。」と呟いてしまった。隣にいた奴が「どうした?」と聞いてきて慌てて「なんでもない。」と訂正する。そして、隣の奴に気付かれないようにそっと溜め息を吐き、禍々しいものを見るような目付きで自分の目の前に広がっている問題プリントを睨み付けた。そこに書いてあるのはピンクの丸と先生の解説を書き取っている水色の文字。偶々、赤と青が切れてしまい仕方無くピンクと水色を使っているため、偶々、この配色になってしまった。そう、偶々。
この前も学校帰りにゲーセンに寄ったときにクレーンゲームの景品のくまのぬいぐるみがその色の配色でびっくりした。ピンクと水色のリボンをつけている女子二人組を見つけたときも何気無く息をついてしまったことだってある。
とにもかくにも、最近、ピンクと水色という配色に敏感になってしまった。


「はぁあ」


なんでこんなに敏感になってしまったかくらい自分でも分かってしまうのがまた嫌なところだ。身に覚えが有りすぎて困る、というよりかは、呆れる。そしてどうしようもなく恥ずかしくなる。
ピンクと水色なんか、街に出ればいくらだってある組み合わせだ。恋人と言えばこの組み合わせだろうし、恋仲じゃなくとも可愛らしいし、スタンダード。むしろない地域の方が珍しいんじゃないかってくらいだろう。なのに、俺はこんなに意識してしまって馬鹿なんじゃないだろうか、と思う。


「はーんだ!」
「…でた」


でも、と俺は目の前に突然現れたピンクと水色をみて苦笑を溢す。
ピンクと水色の派手なニット帽。それがこいつのトレードマークとでもいうのだろうか。


「松野」


違っていてもいい。


「ねぇ、さっき、『あ』って言ってたでしょ。」


だって、ピンクと水色のその派手な色合いはいつの間にかに俺の中ではもう大切な色合いになってきているんだから。


「聞こえてたのかよ…」


ピンクと水色だけですぐに君を思い浮かべることが出来るようになっているんだから。


「あったりまえでしょー?なんで?なんで『あ』って言ったの?」


――そして、また思い知るんだ。


「言わない。」
「なんで?!」


言えっこないだろ。
だって。


「いーわーなーいー」


君を思い浮かべてしまった、なんて。


「ケチー!あ、そういえばね、この前、双葉見つけたの」


そして、また僕らは思い知るんだ。


「半田みたいだなーって!」


君が、君のことが
好きで好きで、大好きで仕方無くなってるってことを。




(ピンクと水色見つけたらにやけちゃうなんて教えてあげない)




end

君色




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