小説 | ナノ


「僕の肩で羽を休めておくれー」


じゃー、んと古風なメロディーの曲は終わった。俺はズズッと音をたてながらコーラを飲みほし、歌い終わった彼を見上げる。赤というよりかは紫に近い髪の色をした彼はゴトン、と手にしていたマイクを乱雑にテーブルの上に置いた。俺はその動作を眺めながらまたズズッという耳障りな音を鳴らす。


「先輩てこういうのも聞くんスね」
「結構聞く」
「ふうん」


今日は雷門中学サッカー部には珍しい部活が休みの日だ。まあ本当は調整日といって怪我した部位の治療や足りない道具の買い出しなどという日なのだが殆んどの部員は『調整』など行わず思い思いの休日を過ごしている。俺も勿論そのクチな訳だ。今日もこうしてたまたま休みの日が重なったということで月山の南沢先輩と一緒にカラオケに来ているわけだ。まだ南沢先輩が雷門に所属していた頃、調整日に遊んでもいいんスか、と聞いたことがあった。そしたら彼はお得意の見下しスマイルで「部活の時は部活、遊ぶときは遊ぶ。そのメリハリが大切なんだよ。分かるか?」なんて抜かしやがった。今日だってそんなノリで無理矢理カラオケに連れてこられた。「折角お互いのオフなのに遊ばなくてどうするんだ?」ってそっちが勝手に居なくなったんじゃないかと反論したくなったがしたところで先輩が覆ることもないので渋々着いてきたわけだが。
ちゃららーちゃらんちゃらん、とテレビ画面からは次にシリアス調の曲が流れ始めた。


「あ、俺だ」
「南沢オンパレード」
「仕方ないだろ。倉間がいれないんだから」


先輩はテーブルに置いたマイクをサイド手に持ちテレビ画面に集中し始めた。
そうなのだ。せっかくカラオケに来たはいいものの先ほどから歌っているのは先輩ばかり俺は先輩のとなりでコーラを啜っているだけ。
先輩はそんな俺を見てたまに曲入れろよ、とか言ってくるが俺は曖昧な返事を返しリモコンに触っていない。別に歌いたくないというわけではない。逆に歌は得意ほうだと思っているし、風呂とかに入りながら鼻歌程度は歌う。だけど、俺は決してリモコンには手を伸ばさない。


「グランドに吹いた風をー ちーいさな窓からー吸いー込んでー ためー息ー」


画面に歌詞が出てきて先輩が歌い始めた。俺は、あ、と呟く。


「これ知ってる」


俺が好きな女性アーティストの曲だ。このアーティストの曲は歌詞も音楽もしっとりしているのが好きでよく聞いている。俺は先輩が歌っているのを聴きながら自分もぽつりぽつりと歌を歌っていた。


「はじめから自由よー」


サビに入る直前に突然南沢先輩がもう一本のマイクを差し出してきた。歌えということだろうか。どうしよう。知らない曲ではない。むしろ好きな曲だ。好きな曲。


『My Dream 言ー葉にー出来ないだけなのーにー…』


好きな曲というに背中を押され俺はマイクを手に取った。
俺の声に先輩の声が混ざる。なんだかとても気持ちがよかった。
そのあと1番のサビを一緒に歌い、俺は夢中でその曲を歌った。


「制ー服ー 脱ぎ捨てたー16のーアタシにー負けたーくはないーからー」


気持ちが良い。
ただそれだけだった。
だから気づかなかったのかもしれない。


「Sixteen My Dream」


俺が歌い終わったあと。
ふと違和感を感じて後ろを振り返った。


「…ってああっ!!先輩っ!!」


南沢先輩はマイクをテーブルに置いて俺の歌を聞いていた。俺が南沢先輩を咎めると先輩は自分のコップの紅茶をゴクリと飲み、そしてニコリと笑った。


「やっぱりお前は歌がうまいな」


一瞬、拍子抜けかけた。
そして一気に身体中の血が顔に集まるのを感じた。


「お前の歌い方、好きだな」


だから人前では歌いたくないんだ。普段誉められなれてない所為かどうかはわからないが歌のことでなにか言われるととてつもなく恥ずかしい。それが南沢先輩なら尚更だ。
俺は赤く染まった顔を見られたくないから殆どなくなったコーラのコップを持ちながら「ドッ、ドリンクバー行ってくる!!」と叫んで部屋を後にした。

なんていうか、

「ばか」


恥ずかしいような、嬉しいような、不思議な感情

ただ、一緒にまた歌ってくれるのなら歌ってあげてもいいような気がした。




End

君と☆デュエット




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