小説 | ナノ


先輩だから何でも知っているんでしょう?自分よりも長く生きている貴方は俺よりずっと物知りだ。その何でも見下してみているその瞳に誓って知らないことなんかないんでしょう?ううん、知らないことなんかないんじゃなくて最善の解決法を見つけるのが上手いだけかな。まあどちらにしろ貴方は俺らが抱えている問題を解決する方法を知っている。ねえ、お願いだから教えてよ。解決法を、教えてよ。


「南沢先輩、先輩」


倉間は今にも泣きそうな声で名前を呼びながら俺の胸に顔を埋めていた。いや、泣きそうなんかじゃない。もう泣いている。顔は見えないが埋められている胸の辺りがじわりと濡れている。それに通気性を良くするために薄くできている服の上から倉間の熱い吐息が直接肌に感じる。普段だったらこんな風に倉間が抱きついてきたら嬉しさで抱きしめ返したいと思うのに今は抱きしめるための腕はふわりと倉間特有の癖っ毛の上に乗せてやることしかできない。ただただ痛いだけだ。
何故こいつがこんな風に声を押し殺すまでしても泣かなくてはいけないのか俺は知っている。知っているから、知っているからこそどうすればいいのか分からない。悔しくて、悲しくて泣いているのなら俺は優しく抱きしめてやればいいことを知っている。嬉しくて泣いているのなら俺は甘く囁いてやればいいことを知っている。だけど今のこいつはどれにも当てはまらない理由で泣いているのだ。戦っているから泣いているのだ。しかし俺はそんな倉間を前にしてどうすればいいのか分からない。どうやって触れればいいのか分からない。なんて囁けばいいのか分からない。倉間に触れていない右手のように宙をフラフラと浮いていることしかできない。


「先輩、どうすればいいんですか…?」


先輩を好きでたまらないのに好きになってはいけない。そんな事実が俺を縛り付ける。
苦しいよ、もどかしいよ、ねえ、先輩?


「先輩、先輩?南沢、先輩?」


逆らってはいけない規則。逆らえない現実。そんな中に一際異様な色を描いている俺たちの理想。ただ好きを共通したいというだけのちっぽけな理想さえも規則と現実は許してはくれない。なあ、倉間。


「倉間」


君を抱きしめたいよ。


「みなみ、さわ、せんぱい…」


先輩、先輩。貴方は狡い人だ。自分を押し殺すことを解決法にするなんて。
ねえ、貴方は知っているんでしょう?
自分を押し殺すなんて狡い答じゃない、本当の答を教えてくれないなんて貴方は狡い。

俺だって答が欲しい。お前を泣き止ますことがことのできる答を。でも知らないんだ。分からないんだ。
なあ、倉間。
先輩だからって何もかも知ってるわけじゃないんだよ。


答を、ください。






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