小説 | ナノ


「今日ってキスの日なんだって。」


いよいよ夏に近づいてきた所為か、もう6時を回ったっていうのに夕日はまだ顔を出している。そんないつもの部活終わりの帰り道。松野が唐突にぽつりと言った。
一瞬、松野が何を言っているのか理解できず聞き返すと松野は「だからー」と面倒臭そうに再度同じことを言い、ああ、自分が聞こえたことは合っていたんだと納得し、納得した内容に俺はもう一度頭を捻った。


「なに、それ。」
「キスの日!ちゅー!接吻!唇とくちびっ」
「もっもう言わなくていい!もういい!」


今日がキスの日だなんて初耳だ。というかこの先このタイミングで松野が言わない限り今日がキスの日然りそんな日があったことさえ知らなかっただろう。
それに『キス』だなんて中学二年生の俺らからしたら大人がする行為=空想の中のようなものだ。そもそもキスがどういうものさえもよくわかってはいない。知っているのは昔からよく聞く「ファーストキスはレモン味」とかいう小っ恥ずかしい謳い文句ぐらいだ。だからこそ松野が言うキスというものに軽い抵抗と恥ずかしさを覚えた。なのに、こんな道路の真ん中で叫ぶなんてこいつは馬鹿なんじゃないだろうか。
俺は若干の熱を感じながらそんなことを悶々と考えいたらまた突然に松野が口を開いた。


「僕、半田とキスがしたい。」


はあっ?!という大きな声が俺と松野しかいない公道に広がった。松野はその大きな音に顔をしかめ、派手なニット帽の上から耳を塞いでいる。


「なっ何言ってんだよ?!ばっかじゃねぇの?!」
「ばかじゃないよー。だって僕、本気だし。」
「だったら!余計にばかだな。ばか!」


キスがしたい。なんて。
さっきは若干だった熱が今では体全体を包んでいるのがわかる。
だって俺らは中2だし、そもそも男同士だし、っていうかなんでそういうことを突然言うのかまるで想像できない。まあ普段でもあいつが何を考えているかなんて想像もつかないけれど。
まあ何かしら反論しなくては、と勢いよく松野の方向へ顔を向けた。


「ほんっとに、お前って奴はな…!」
「はーんだ」


ちゅ、


触れるか触れないかのなんとも臆病なキス。


「え、」
「…奪っちゃった」


目の前には夕日の所為か照れなのか、顔を真っ赤に染めている君。


「キスって、こんな感じなんだね。」


ファーストキスはレモン味、なんて聞くけれど実際は味なんかしない。


「…松野も、初めて、な訳?」


味なんて感じないほどにドキドキしてしまうのだから。


「当たり前でしょー…」


感じるのは、やっぱり恥ずかしさ、と少しの愛おしさ。




End

はじめてのチュウ




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