小説 | ナノ


新年始まって早々。あけおめメールよりも早く俺の携帯が受信したのはあいつからの着信だった。けれどあいつの事だからどうせまた「新年一発目は半田の声がいいなあ、って思ってさ。」とか訳のわからないくさい内容だろう。俺ははあ、と溜息交じりに松野の行動を予想しながら「もしもし?」と電話に出た。電話に出ると『あ。あけおめ〜半田あー』と年を越したのも関係ないというような松野の間延びした声が受話器から聞こえる。俺はどうせ、と予想をしながら「あけおめ。それで?何?」と聞き返した。そして返ってきた返事。それは俺の予想の上空45°辺りをひゅーと通過していくことになった。


『外に出てきてみてよ!』


外?それは家の外、と解釈してもいいのだろうか。まあ現に今俺は自分の部屋にいるわけだからどう考えてもそういう解釈になるのは明白だ。しかし、だ。今の時刻は夜の12時半。しかも年明けときた。外は極寒に決まっているだろう。それなのに外に出ろ、だなんて。あいつはどうかしているんじゃなかろうか。俺はそこまで考えてぴたりと動きを止めた。まさか。


「松野、お前…」


今年もこうして思い知らされるのであった。あいつ、松野はどうかしている生き物なんだ、と。俺は嘘だろと自分の考えを否定しつつも恐る恐る自分の部屋の窓から外を覗き込んでみた。やはりそこには案の定


『ねえ、寒いから早く来てよー』
「ばっ、ばーか!」


案の定、俺の家の目の前には青とピンクの縞模様のド派手なニット帽とそれに覆われてちょこっと覗いた明るいオレンジがダウン一枚で寒そうに自身を包みながら立っているのであった。
俺は上から松野の姿を確認するや否や直ぐに外に飛び出た。



「あっ、半田ー!」
「ばか松野!なんでこんなさっみぃな、か…んむ?!」


玄関から直ぐさま寒さが広がる外に出た、つもりだった。いや、つもりというのはおかしいのだろうか。けれど、大体似たようなものだろう。だって、


「…松野?何すんだよ、いきなり…」


外に出た途端松野のあったかい子供が体温が俺を包んだから。


「んー?ハグ?」
「それはわかるっつーの。俺が聞きたいのはそういうのじゃなくて!!」
「なんでハグしたのか!! でしょ。」


言いたいことを先に言われてしまった。こういう時ってどうしていいかわからなくなってしまう。とりあえず恥ずかしさで真っ赤になった茹でだこみたいな顔を隠そうと松野に抱きしめられたまま下を俯いた。そして癪に触るが一回ゆっくり頷く。


「へへー当たったー。」
「い!言いから早く言え!じゃなかったらさっさと離せよ!」
「え、それはやだよー。しょーがないなあ。あのね、」


松野はわざとらしくそこまでいうとさっきまでとは違う、強い力で俺を抱きしめてきた。


「新年一発目に半田を抱きしめたくなったから。」
「…っ!!」


松野のその言葉を聞いた途端茹でだこ状態は顔だけには収まらず全身を駆け巡った。ああ、もう俺、本当に茹でだこになってしまうじゃないだろうか。全身暑くて堪らない。
どうして、どうして、こいつはいつもそうなのだろうか。


「あれ、半田くんどうかした?耳まで真っ赤にしたまま動かなくなっちゃって。あれー?」


いつもお前は、俺の予想の45゚ズレたところをついてくるんだ。
抱きしめたくなった、って…。そんなこと、誰が想像するものか。


「ばー…か。」
「え?何々?どうしちゃったのー?」
「なんっでもない!!」
「えー?」


新年早々。やられてしまった。
俺はそんなことを彼特有の子供体温を全身いっぱいに感じながらぼやぼやと考えていた。


「まあとりあえず今年もよろしくね、真一くん。」
「…ばーか。」


今年も多分君に振り回されるのだろう、きっと。俺が思っているより45゚ズレながら。





End

上空45゚の流れ星




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