ガシャン、と部屋の奥でまたモノが壊れる音がした。俺は物音に肩を振るわせながら目を向けるとそこには同じく肩を振るわせながら粉々になったオルゴールを凝視している狩屋がいた。オルゴールからは弱々しい音色が鳴っていたがしばらくすると音色はピタリと止みこれ以上音を出すのをやめた。きっとこのオルゴールは誰かが手を加えてももう鳴ることはないのだろう。ぐしゃぐしゃに砕けた人形の顔がその痛々しさを物語っていた。俺は人形に一瞥やると狩屋に気付かれないよう小さくため息を吐きまた始まったか、とかぶりを振った。
オルゴールを破壊した本人、狩屋マサキは時々発作的に周りの『モノ』を破壊してしまう所謂、破壊癖というものがあった。これは彼が幼い頃からの癖のようで彼が幼少から過ごしているお日さま園でも問題になっており、一時期は幼稚園、小学校に通うことさえも難しかったらしい。だが、中学に上がりサッカーを始めてからはそんな彼を取り巻く厄介も少なくなり周りも漸く安堵できるようになった。
狩屋とは最初は犬猿の仲ではあったが今は和解をし恋人になるまでになった。けれどそれからなのだ。また、彼の破壊癖が目立ってきてしまったのは。恋人が出来ることは祝福することでもあり、俺が幸せだったのと同じ様に彼も幸せそうだった。たまににくたれぐちは聞くもののそれが彼なりの愛情表現なのだと分かっていた。そんな風に穏やかな日により彼の厄介事は無くなったにみえた。なのになぜ彼がまた破壊癖をしなければならなくなったのははっきりとは解らない。だがきっと原因は俺だろう。俺の所為で彼、狩屋はまた苦しまないといけなくなった。
俺はそのせめてもの償いで彼がモノを破壊しても怒るようなことは絶対にしない。そのかわりに優しく接する。今回も直ぐに狩屋の元へ行き、彼の足元に散らばったオルゴールを拾い上げてやった。
「大丈夫か、狩屋。怪我は?」
「…っ!!」
笑顔で狩屋を見上げてやるが狩屋は俺の問いには答えずぎゅうと拳を握りまた新たなモノへと手を伸ばした。
───ガシャン
俺の近くでモノがまた破壊された。飛び散った破片が俺の頬を傷付ける。つぅー、と熱いものが頬を伝うのが分かった。それは口に入り、口の中一帯に鉄の味を広げる。血だ。気付いたときにはもう遅く、俺の血を見た狩屋は狂ったように叫びだした。
「うわああああ!!お前がっお前がっ悪いんだ!!」
ああそうだよ。俺が悪いんだ。
「お前がっ僕を怖がるからっ!僕が怖いんだろうっ?!」
笑顔の俺とは裏腹に狩屋は何かにとり憑かれたかのように次に次にモノを破壊していった。花瓶、プラスチックの箱、オーディオに本棚。全て粉々に崩れていき、全ての破片が俺に降りかかる。そして破片によって傷付いた俺の皮膚からは真っ赤な血がパタパタと流れ落ちた。
「だから、だからキャプテンがいいんだろっ?!僕が怖くなってっ!それでっキャプテンに逃げたんだろっ?!」
狩屋がいうキャプテンという言葉は震えていた。
「お前はっ、キャプテン、がっ、好き、なんだろ…!」
どこかズキン、と痛い。
もしかしたら沢山開いた傷かもしれない。
じゃあ、なぜ俺はごめんと言っているんだろう。
涙を流しながらごめんと言っているんだろう。
「どうっして…謝るっ?」
狩屋もまた獣ように鳴き始めた。俺はそんな泣きじゃくる狩屋を抱きよせ、きつく抱きしめる。
ごめん、と呟きながら。
ごめん
まだ俺は君を傷付けないといけないらしい。
ごめん
だから、俺そのモノを君の手で破壊してくれないか。
ごめん
君しか見れなくしてくれないか。
ごめん
そうじゃなきゃ、君は破壊することしか出来なくなってしまう。
「ごめん」
End
オルゴールを破壊した本人、狩屋マサキは時々発作的に周りの『モノ』を破壊してしまう所謂、破壊癖というものがあった。これは彼が幼い頃からの癖のようで彼が幼少から過ごしているお日さま園でも問題になっており、一時期は幼稚園、小学校に通うことさえも難しかったらしい。だが、中学に上がりサッカーを始めてからはそんな彼を取り巻く厄介も少なくなり周りも漸く安堵できるようになった。
狩屋とは最初は犬猿の仲ではあったが今は和解をし恋人になるまでになった。けれどそれからなのだ。また、彼の破壊癖が目立ってきてしまったのは。恋人が出来ることは祝福することでもあり、俺が幸せだったのと同じ様に彼も幸せそうだった。たまににくたれぐちは聞くもののそれが彼なりの愛情表現なのだと分かっていた。そんな風に穏やかな日により彼の厄介事は無くなったにみえた。なのになぜ彼がまた破壊癖をしなければならなくなったのははっきりとは解らない。だがきっと原因は俺だろう。俺の所為で彼、狩屋はまた苦しまないといけなくなった。
俺はそのせめてもの償いで彼がモノを破壊しても怒るようなことは絶対にしない。そのかわりに優しく接する。今回も直ぐに狩屋の元へ行き、彼の足元に散らばったオルゴールを拾い上げてやった。
「大丈夫か、狩屋。怪我は?」
「…っ!!」
笑顔で狩屋を見上げてやるが狩屋は俺の問いには答えずぎゅうと拳を握りまた新たなモノへと手を伸ばした。
───ガシャン
俺の近くでモノがまた破壊された。飛び散った破片が俺の頬を傷付ける。つぅー、と熱いものが頬を伝うのが分かった。それは口に入り、口の中一帯に鉄の味を広げる。血だ。気付いたときにはもう遅く、俺の血を見た狩屋は狂ったように叫びだした。
「うわああああ!!お前がっお前がっ悪いんだ!!」
ああそうだよ。俺が悪いんだ。
「お前がっ僕を怖がるからっ!僕が怖いんだろうっ?!」
笑顔の俺とは裏腹に狩屋は何かにとり憑かれたかのように次に次にモノを破壊していった。花瓶、プラスチックの箱、オーディオに本棚。全て粉々に崩れていき、全ての破片が俺に降りかかる。そして破片によって傷付いた俺の皮膚からは真っ赤な血がパタパタと流れ落ちた。
「だから、だからキャプテンがいいんだろっ?!僕が怖くなってっ!それでっキャプテンに逃げたんだろっ?!」
狩屋がいうキャプテンという言葉は震えていた。
「お前はっ、キャプテン、がっ、好き、なんだろ…!」
どこかズキン、と痛い。
もしかしたら沢山開いた傷かもしれない。
じゃあ、なぜ俺はごめんと言っているんだろう。
涙を流しながらごめんと言っているんだろう。
「どうっして…謝るっ?」
狩屋もまた獣ように鳴き始めた。俺はそんな泣きじゃくる狩屋を抱きよせ、きつく抱きしめる。
ごめん、と呟きながら。
ごめん
まだ俺は君を傷付けないといけないらしい。
ごめん
だから、俺そのモノを君の手で破壊してくれないか。
ごめん
君しか見れなくしてくれないか。
ごめん
そうじゃなきゃ、君は破壊することしか出来なくなってしまう。
「ごめん」
End
ごめん、と