小説 | ナノ


(10年後パロ)


午後11時半を回った公園は夜中にも関わらず賑やかな声が響き渡っている。夜桜が綺麗に舞い踊る下で開かれているのは仕事でついてきた疲れを引き剥がすかのように酒を飲み酔いつぶれている大人たちのどんちゃん騒ぎだ。そしてまたそんな気品も何もない宴会に流されるかのように真一と僕も酒に酔っていた。


「え、えー なんでよーぅ もぉーっとのもぉーよおー」


しかし、やっぱり僕らには仕事というものがついては離れない。明日も朝早いので日付を跨がない内にここらでお開きにしようという声が上がった。皆がバラバラと散らかった空き缶や紙皿を片付け始めた頃。真一だけが真っ赤な顔をしながら呂律の回っていない口ぶりで駄々をこね始めた。


「ダメだよ、真一。明日も僕ら仕事なんだから。」
「そーんなのーいーよおー いらなーい」


何時も思うのだが真一は本当に酒に弱い。只でさえ酔いやすい体質で少量でもこんな風になってしまうのにバカバカ飲むとかやっぱりどこか抜けている。明日の朝だって二日酔いでフラフラになるに決まっている。僕はそんな真一に一足早く頭を痛くさせた。


「そんなこと言ってられないでしょ。ほーら立って。」
「やあだーもっとのむー」


真一は未だに嫌々と首を振ってその場を立とうとしない。そんな様子を見てか一緒に飲んでいた同僚たちに先に帰っても大丈夫だ。とお情けをかけられた。だが状況が状況だ。今は同僚たちのお情けにお言葉に甘えて帰らせてもらうことにした。
ふにゃふにゃになった真一を立ち上がらせ肩に背負い帰路を後にする。近くなった真一からは酒の臭いが僕の鼻をついた。どれだけの量を飲んだんだこの人は。自然と僕の口からは溜め息が吐き出された。
と、その時。


「くうー、みてー」


強い突風と共に夜桜のピンク色が僕らのまわりを綺麗にゆっくりと舞い散った。目の前をたくさんの花びらがまるでスローモーションのように、月にいざなまれるように夜空に消えていく。

そう言えば、桜は散るのが早いと聞く。きっと毎年こうやって散って逝くのだろう。また来年美しく咲き誇るために。


「さくらふぶきだー…」


真一もまたそんな目の前の景魅入っており、ピンクの方に手を伸ばす。伸ばされた彼の手には小さなハート型が舞い降りる。


「きれーだ」


手に乗っかっている桜を見ながら真一がぽつりと呟く。
他からも同じように目の前の桜吹雪に対する感嘆の声が聞こえてくる。だが僕の視界には彼の手の上のハート型とそんなハート型を優しく見つめる真一しか映らない。

桜は散るのが早い。


「僕は、真一の方が綺麗だと思う。」


何故直ぐに散ってしまうの?と聞いたらある人は答えた。
美しいものは短命なんだよ、と。


「…は、はぁ?な、何いってんの…?」


真一の顔は先程の優しい顔とは打って変わって僕を軽蔑するような顔になった。


「綺麗だよ」


なんでかって?


「ばか…」


だって桜の美しさは一瞬だけだけど。
君はどんな表情をしたって美しい。


「あーもー!飲み直すぞ!」
「はいはい。」


やっぱり僕は花よりだんごだ。




End

花よりだんご




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