小説 | ナノ


(10年後パロ)


微睡みが気持ちいい午後。
マサキは気だるい身体をゆっくりと起こしあげながら、周りを流れる甘ったるい香りに目を覚ました。部屋を充満する甘酸っぱい香り。気持ちは悪い匂いではないがやはり匂いの元がわからないともやもやする。と、いうか嫌だ。何か怪しいものが部屋にいるかもしれない。マサキは匂いの元を探すように寝ぼけ眼で辺りをキョロキョロと見渡した。
するとあるシルエットが目に入った。


「あ、」


あ、等と間抜けな声をあげてこちらを見てくる人はマサキの大学さえ違えど中・高での一個上の先輩兼同棲相手の霧野蘭丸だ。
蘭丸は休日だからかどうかはわからないがいつもは一つに結わいている綺麗なピンクの長髪をダランと下ろしている。普段見慣れていないからだろうが髪を下ろしていると雰囲気がガラリと変わり、一瞬では蘭丸だとはわからなかった。マサキは確かめるように蘭丸の名前を呼んだ。


「蘭、さん…?」


起きたばかりで掠れた声になってしまったマサキに蘭丸は漸く起きたか。等と言い優しく微笑み返した。しかしマサキはそんな蘭丸の言葉を無視し次に目に入ったものの名前を呟いた。


「ショートケーキ…」


蘭丸の目の前に置かれたショートケーキ。調度旬な時期でよく熟れた苺とそれを乗せている白い生クリームとふわふわのスポンジ。甘ったるい香りの原因はこいつだったのか、とマサキは一人で納得し、次に香りの元が食べ物だと分かるとぐぅ、と腹の虫が騒ぎ始めた。


「なんだ?腹減ったのか。」
「だって何時間寝てたと思ってんの。」
「さあな。お前の分もあるけど食う?」
「…食う、」


蘭丸はマサキの返事を聞くとよし待ってろーと言いながらキッチンへと消えて行った。マサキはそんな蘭丸の背中を見ながらショートケーキ一つが乗っかったダイニングテーブルにだらーと身体を伏せた。すると先程よりショートケーキと近くなった所為か甘ったるい香りがより一層マサキの鼻孔を刺激した。その香りを嗅ぐと更に腹の虫が暴れ始め、空腹に堪らなくなったマサキは食べかけのショートケーキを一口自分の口に運んだ。


「甘っ」
「あっ!マサキー!お前俺の食ったろ?」


マサキは口の中に広がる予想以上の甘さと蘭丸がタイミング悪く帰ってきてしまったことに顔をしかめながら蘭丸の食べかけのショートケーキをフォークで指差した。


「蘭さん、こんなん食べてんの?」
「悪いかよ?」
「別に悪くはないけど、合わないなって。」
「合わない?どういう意味だ。」


合わない。
多分、髪を下ろしてる蘭さんが珍しく思えたのも、ケーキが甘くてびっくりしたのも蘭さんとショートケーキが合わないからだ。
見た目はピンク色の綺麗な長髪だし、顔だってどちらかというと女顔だからショートケーキなんていうコジャレたものと合うのかもしれないけど中身は全くの正反対。男らしいのそれだけだ。
なのに、ショートケーキなんか食べてるだなんてなんだか違和感を感じた。

マサキはちらりと横に目をやった。するとそこには美味しそうにショートケーキを頬張る蘭丸の姿。

いや、きっと違和感を感じるのは自分だけだろう。
マサキは隣の男らしい恋人に気付かれないようにそっとショートケーキを口に運んだ。

ショートケーキが似つかないような男らしい一面を知っているのはきっと自分だけだから。

甘ったるい味が口一杯に広がった。


「甘っ」




End

ショートケーキららばい




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