小説 | ナノ


桃の花の可愛らしいピンクが目に留まるようになった3月上旬。空には一面の青が広がっている。ポカポカとした暖かい春の日差しも気持ちがいい。
俺たちはそんな春の始まりを全身で浴びながらグラウンドにいた。
着古した学ランには真っ赤な造花が一本刺さっていた。生憎ボタンは全てきっちりと揃っている。そんな中で手に持った卒業証書だけは真新しく光っていた。

今日は、中学3年間の中での一大イベント、卒業式だ。


「あーあ、もうここともお別れかー」


隣で松野は頭の後ろで手を組みながらそう呟いた。3年間ずっと通いつづけた雷門中学校。3年間夢中でサッカーをしてきたこのグラウンド。今日でこことも暫しお別れだと思うと確かにちょっと、いや多分かなり心淋しいものが無いとも言えない。
俺は松野の言葉に返事をするかのようにグラウンドに転がっているサッカーボールを松野に向かってパスをした。パスされたサッカーボールは多少宙に浮きながらポン、等と音を立てて器用に松野の足に収まった。


「なーんか早かったよーな短かったよーな。」


ポン、と松野からパスを回される。俺は「なー。」と短い言葉だけで返事をし再度松野へパスを飛ばした。しかし、サッカーボールは松野の足元に収まらずにそのまま松野の後ろ1mぐらい先の場所にてんっ、とボール特有のゴムの音を立てながら落ちた。松野は「あ、」と小さく呟くと直ぐに飛びすぎたサッカーボールの元へと駆けっていってしまった。


「どこ飛ばしてんのー!!」


先程より少し離れた場所から松野が勢いよくサッカーボールを蹴りあげた。蹴りあげられたボールは青空を背景に松野が狙いを定めた場所まで綺麗に飛んでいく。と、同時に松野が大きな声で俺の名前を叫んだ。


「はーんーだー!!」


コロコロと転がっていくサッカーボールはゴール前でぴたりと止まった。


「なーにー?!」


俺は転がったサッカーボールを拾い上げ、松野に向かって投げる。それは見事に孤を描き松野の腕の中に入り、松野はまたボールを前より強く蹴りあげた。勿論ボールはその分勢いよく跳ね上がる。そしてバスッ、というゴールのネットが揺れる音が耳を掠めた。ゴールしたボールはコロコロと俺の足元まで転がってくる。


「僕ー半田にー会えてーよかったー!!!」


どうしてだろう。悲しくないのに。
なんでだろう。卒業式では我慢出来たのに。


「ありがとうー!」


どうしてこんなにも視界がぼやけてしまうんだろう。

松野がサッカー部に入部してから2年間。ずっとずっと一緒だった。だからだろうか。
嬉しいときも悲しいときも必ず傍に松野がいた。
いつの間にかに松野が隣にいるのが当たり前になってた。
いつの間にかに好きで好きで大好きで堪らなくなってた。


「まつのー!」


ぽんっ、とサッカーボールをおもいっきし蹴り飛ばす。


「ありがとうー!」


好きで好きで大好きな大切な存在。
そんな気持ちを松野は教えてくれた。
こんな時にしか言えないから。
たくさんの感謝を込めて君に伝えよう。


「ありがとうー!」


卒業、おめでとう。




End

ありが10匹ありがとう




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