小説 | ナノ


はあ、と息を吐くとそれは真っ白になりながらどんよりとした灰色の空へと消えってゆく。拓人は自分の吐いた息を見上げながらぶるりと体を震わした。それもそのはずだ。頭上は一切太陽を遮断した曇天、足元は昨夜から今朝方に渡って降り積もった雪たちが広がっているのだから。こんな典型的な雪が降った次の日に寒くないと言うやつはどうかしている。きっとそんな奴は頭のネジが一本少ない奴か人間じゃない奴のどちらかだろう。


「神童キャプテン!!」


突然後ろからザクザクと積もったばかりの固めの雪を踏み締める足音と自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。拓人はそれらの音に進む足を止め、音の正体の方へ顔を向けた。そしてその正体に向けて先程吐いた息とは比べものにならない量の溜息を曇天に吐き出した。


「松風。」


音の正体は拓人の一つ下の後輩、松風天馬だ。天馬も拓人と同様に真っ白な息を大きく開いた口から吐き出している。いつもどんな時でも笑顔を絶やさない天馬でさえ「今日は寒いですね!」等と言いながら眉を潜めていた。拓人はそんな天馬にとってはただの社交辞令かもしれない言葉と表情に、ああなんだこいつも普通の人間なのか、と納得する。そして自分も再度白い息を吐きながら「そうだな。」と返した。


「うぅ〜でも今日はほんとに寒いなあ。」
「昨日雪が降ったからなあ。」


先輩後輩の何でもない日常会話。しかし今日は雪の所為でとても寒い日。話す度に吐きでる息は真っ白に彩られている。拓人はそんな当たり前の事なのだが、天馬からも自分と同じような真っ白な息が吐き出されているのがとてつもなく可笑しく思えた。拓人は天馬の話を聞きながら隣から沸き上がる白を見つめた。白は楽しそうに空に出ていくが直ぐに消えていってしまう。その一連の動作は当たり前だが自分と同じだ。しかしその何気ない動作が拓人に天馬も自分と同じ一人の人間なのだ、と教えてくれた。

サッカーに真っ正面に生きていく天馬の背中は何時からか拓人にとって手の届かない尊い存在になっていった。そしていつの間にかに自然と拓人はその事実を飲み込んでいった。フィフスセクターに何の抵抗もせず従いつづけた自分とは違い、サッカーをただ純粋に愛しつづけた彼は何時からか特別な存在だと思うようになっていた。
だが、そんなのはただの思い込みだ。
拓人は天馬と同じく曇天へ吐き出される自分の息を見ていた。


「キャプテン」


たわいのない会話の途中唐突に天馬に名前を呼ばれた。拓人は吐き出されいく息から隣で自分を見つめてくる天馬に視線を移動させた。


「なんだ?」
「笑ってる方が、いいですよ。」


いつの間にかに自分は笑っていたのだろうか。空は灰色から青に変わろうとしている。当然白い息も姿を消していく。


「笑ってる方が、素敵です。」


そう言いながら自分もニッコリと笑っている天馬にお前の方がいいに決まっているだろ、と思いつつ拓人ははあと息を吐き出した。今度の息は姿形を見せずに空へと昇っていく。


「呆れた。」
「えっ なんでですか?」


素敵、だと思ってる奴に素敵とか言われるだなんて。
俺も少しはお前に近づいてきているのだろうか。




End

吐き出される息は白く美しく




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