小説 | ナノ


ついつい微睡んでしまいそうな日差しが気持ちいい午後3時。俺らはテレビも音楽もつけずにただ狭い部屋にポツンと置かれているベッドの上でボーっとしていた。既にもう事は終わらせた部屋の中には精液の青臭い匂いと吐き出したあとの気怠さが充満している。
俺は横になりながら真っ白な天井を見つめていた。ああ、このまま目を閉じてしまえば直ぐに寝てしまえるな。疲れきった体はもう充分に睡魔を迎え入れられる。ふあ、と大きな欠伸が口から零れた。
と、そんな俺の様子に気づいたのか。隣でもう既にすぅすぅと寝息をたてていた松野がムクリと突然こちらに体を向けた。


「寝るの?」
「え?」
「寝るの?」
「もう眠い」


単語だけの会話。松野は俺のそんな面白くもなんともない返事にふぅんとやはり同じく面白くもなんともない返事をした。そして興味もなくなったのかまたごろん、と寝返りを打って次にはまた幸せそうな寝息していた。さっきまでは俺の上であんなにも荒々しかったのに、な。と松野の寝息を聞きながら柄にでもないことを思う。
リズムのいい寝息を聞いていたら睡魔が本格的に襲ってきたらしい。俺は真っ白なシーツに全裸のまま身を包んだ。隣には同じく一糸纏わぬ姿の松野が寝ている。日差しの調度いい暖かさが当たる部分とシーツのひんやりとした冷たさが当たる部分とが上手く交じり合い気持ちがいい。俺はゆっくりと瞼を閉じた。


「半田、」


まだ微睡み程度だった所為か遠くで君が呼ぶ声が耳を掠める。と、同時にシーツの冷たさはとはまた違う冷たさが俺の肌を伝った。


「ん まつの な、にして」


冷たさの正体はひんやりと冷めた松野の手だった。俺はその可愛らしい容姿とは裏腹にゴツゴツと骨張った手を掴んだ。すると手は掴まれたまま俺の頬へと移る。触れられた頬に当たる指先もまた同じように冷たい。


「キスして」


するりと唇に触れられる。もう行為は終わったのに、自身はなんていうか。甲斐性がないというのかな。ゾクリと身体が一つ震えた。


「ねえ」


掠れた声が余計に俺をそそる。
俺はその声に導かれるように真上から自分の顔を覗いている頭に手を伸ばし首に手を回した。そしてそれが合図かのように松野がゆっくりと頭を下げ、唇と唇が重なるように覆い被さった。
ちゅ、と軽いリップ音が午後の部屋に響く。松野はそれを堪能するようにもう一度キスを落としたが珍しく2回でキスを止めた。
俺はそんな松野を不思議に思い見つめた。


「なんか。松野って猫みたい。」
「は?なんでよ。」


松野のオレンジ色の髪がふわりと動く。


「いきなり俺起こしてキスして、とか。」
「だってしたかったんだもん。」
「ほら、気まぐれなとことか。」


俺は目の前に垂れている松野のオレンジを弄りながらふふ、と笑った。松野はそんな笑い声が気に入らなかったのかしかめっつらを浮かばせている。


「うるさいなあ。」
「ねえ、にゃあって言って。にゃあって」
「嫌だー。」
「にゃあ」
「…可愛いけど言わないよ」
「かわっ…?!…ん」


墓穴を掘ってしまった俺に今度は松野がふふ、と笑みを零した。そして何か反論しようとした俺の唇を自らの唇で塞がれる。
また午後の微睡みが流れはじめる。


「もっかいしよ?」
「…眠いんだけど」
「しょうがないじゃん。ほら、僕気まぐれ猫なんでしょ?にゃあ」
「…ばか、」


決して松野の「にゃあ」にキュンときた訳ではないんだけど。

俺はオレンジを引き寄せ、受け入れる。
ゆっくりと午後が流れはじめた。




End

気高く吠えて、唸る




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