event | ナノ



最後の花火

『今年は一万発にも及ぶ花火をとくとご覧ください。』


アナウンスが流れた後に全ての照明が落ち、祭会場は一気に暗くなった。


「おー、雰囲気でるなー。」
「っと、うわ、誰か踏んだ!!」
「…………俺だよ…」


急に暗くなったせいでまだ慣れていない目では回りに誰がいるのかさっぱり見当がつかない。頼りになるのは聞き慣れた声だけだ。半田はその中なら松野を探そうと雑多ななか1番に聞き慣れた声に耳を傾けた。


「…だ、」


遠くから松野まだ少し高い声が聞こえた。半田はそちらに向かって目を凝らす。

松野? どこだ、松野。


「松野?」
「半田っ。」


胸にざわざわと不安が張り詰めてきた時、突然自分の手に暖かいモノが触れ、次の瞬間にはぐいっと強く後ろへ引っ張られた。


「うっわあ!! …ま、松野…」
「勝手に遠くに行かないでよ。」


引っ張られたその先は花火を見ようとする人達の集まりの最後列。松野はブスリとした表情で半田を見ている。


「ゴメン、ゴメン。」


半田は笑いながら謝り、「じゃあ行こうか。」と今度は松野の手を集まりの中へ引っ張った。
だが、


「いいよ、ここで。」


それは叶わず、松野は1番後ろのポジションから動こうとはしない。


「へ? なんで? ここじゃ、花火見づらいよ」
「いいの、ここがいいの。」
「松野…?」


半田がいくら説得しても松野は嫌だの一点張り。
そして、ついに。


ヒュー.. ドーン ドーン...


一発目の花火が打ち上がった。


「どうしたんだよ、松野。なんか、可笑しいぞ。熱でもあんのか?」
「違う、違うんだよ。ねえ、半田…??」


ヒュー...


また花火が打ち上がる音がした。
そして、ドーンという花開く音ともに回りからは感嘆の声が上がる。


「…もう少し…でさあ、僕ら引退だね。」


ヒュー...ドーン


「そしたら、いつもみたく…一緒にはいれなくなる。」


花火の光に照らされた松野の表情は見たことのないくらい切ない表情だった。


「ま つの?」
「ねえ、半田」


お願い聞いて。


そう聞こえた気がした。
しかしそれは大量に打ち上げられた花火によって掻き消され、二人の視線は暗闇の中の大量な光に向けられた。


「…綺麗、だね。」
「……ああ…」


パーン..パーン...パーン....


空に上がる赤や黄色の大きな花。


「半田、手、繋ごう。」
「…うん。」


そして固く結ばれた二人の手。

結ばれない二人の想い。


手の平から松野の暖かさが流れ込んでくるような気がした。

その温度を零さないように半田は強く松野の手を握った。



大切にし過ぎた友情はそこからはもう進展などないのだ。

花火はそれでも綺麗に打ち上がっていく。



君と見た最後の花火はとても切なかった。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -