永久に続くラプソディ 仕事終わりにあいつからのメール。『今日は早く帰ってきてよね。』だけという素っ気なく文面。だが家へとの帰路を歩く俺の足どりは自然と早くなって行っていった。 家に着き見慣れた部屋番号がかかれた扉のチャイムを鳴らすと部屋の中からパタパタと足音が聞こえ、次にはガチャリとエプロン姿の空が出迎えてくれた。 「お、早く帰ってきた。」 「お前が早く帰ってこいっていうから早く帰ってきたんだろ。」 「偉い偉い。おかえり、真一。」 「ただいま。で、なに。どしたの?」 部屋に上がりながら俺はニヤニヤとした笑みを浮かべながらこちらを見てくる空をいかぶしげに見つめた。よく見てみると唇が少しつんっ、と突き出ている。この仕種の時は必ず何か企んでいるに違いない。俺はこの部屋に隠された空の企みに気をつけながら奥のリビングへと進んだ。リビングの様子はいつもとさほど変わってはいない。だが俺は目を丸くした。俺の目線の先はいつも空介と食事を共にする場所、食事をするテーブルに綺麗に並べられている彩りの食材たちにいった。料理が得意な空が作ってくれているから食事が用意されていることには驚きはしなかったが俺が驚いたのはその料理の出来だ。まるでフランス料理かイタリア料理の(どちらも食べたことがないからよくわからないが)ようだ。 「なんだこれ。全部空が作ったのか?」 「まぁね。凄いでしょ。ささ、席に着いてくださいな。」 「すげぇ!」 空に椅子を引かれ俺は椅子に腰をかけた。近くで見てもこのご馳走は凄い。俺がそんな料理たちに感動していると横から空が「今日は飲も」と言いながらシャンパンをワイングラスに注いでくれた。シャンパンは光に反射して綺麗にワイングラスに注がれていく。これじゃ高級レストランさながらだなと思う。 そして、空はシャンパンを注ぎ終わると次に自分のワイングラスにもシャンパンを注ぎ俺に向かい合うように席に着いた。 「さってとー、じゃあいただきますか?真一さん。」 「そうですねー。…っていうか、空?いただきますか?じゃなくてさ、あのさ」 俺はワイングラスを持ち乾杯をしようしている空を止め、料理に感動しながらも抱きつづけていた疑問を空に投げかけた。 「今日、どうしたの?こんな凄い料理に、シャンパンなんてさ。」 いつもより何倍も豪華な料理たち。それをいきなり作るなんて今日はどちらの誕生日か記念日だっただろうか?勿論、こんな凄い料理を作ってくれるのは嬉しい。嬉しいに決まっている。だが、何も分からないままで食べるのも気が進まない。 すると、空は逆に不思議そうな顔をして俺に向かってワイングラスを傾けながら口を開いた。 「え、だって、今日、ホワイトデーでしょ?」 空はそういいながらワイングラスを傾け昔と全く変わらない笑顔を俺に向けた。 「3倍返し」 「…なるほど、なー…」 俺もシャンパンが注がれたワイングラスを手に持った。グラスの中の液体がゆっくりと傾く。 「おめでと」 「なにがめでたいんだが。」 今、思えばいつも空からはあげた分の3倍も4倍ももっともっと倍で返してもらっていたような気がする。 俺が1回好きだよ、と伝えると空はそれ以上の好きだよ、を返してくれる。 だから、と。 「さんきゅ」 「どういたしましてー」 もっともっとその何倍もの愛を君に返そう。 あげてもらってかえしてあげて。 そんなことをずっと続けていこう。 そしていつか愛でいっぱいになる日まで。 永遠にずっとずっと終わらせないよ。 「かんぱーい!」 End |