Let's Trick! ブワッぶわぶわぶわっと夜風が顔面に強くぶつかる。しかし、今の僕にはそんなことは関係ない。いや、気にならないっていうのかな、この場合は。まあ、とにもかくにも今、僕はというと。 「ひゃっほー!」 「オラオラァ!悪霊共!噛み契ってヤラァアア!」 「すげぇ!」 「うわああああああああああああ!!」 上空10mくらいを飛行しています。 なんでこうなってしまったかというとそれはまだ1〜3分前のこと。悪霊払いに行く、といって僕は左手に悠馬くん、右手に琥珀ちゃんを持って陽さんに2階の僕の部屋から突き落とされたのだ。まあ突き落とされたと言っても流石は妖怪の二人組だ。落下スピードはジェットコースター並だか普通は90度落下の所が45度落下になってるわけだから空を飛んでいる。黄汰くん曰くこの事を『悪霊ダイブ』というらしい。ダイブってもう落ちてること認めてるじゃないですか状態だけどこれで悪霊たちの元へ行くと相手が怯むらしい。そりゃそうだ。誰だって斜め45度から人が(妖怪)が落ちてきたら驚くに決まってる。 まあ、そんな感じで今、悪霊さんたちの前に到着しました。わあ、怯んでる、怯んでる。仮面がカタカタ言ってるよ〜……。 「おいおい悪霊よ。なんでこんなとこうろついちゃってる訳?え?」 「言えないの?そんなに可愛らしいお口があるのに。何々?聞こえませーん。」 黄汰くんと琥珀ちゃんは早速どっかのローカルヤンキーみたいな口調で悪霊に話しかけている。…もうこれじゃあどっちが悪霊なのかわかんないよ…。 【オマエラコソ…ナ、ナゼココニイル?!】 悪霊さんはもう何が起きているのか解らない感じだ。あわあわとしている。 「なぜって…。お前を払うため。かな。」 「ってことで早速払うよ。…美月、悠馬!来て!」 琥珀ちゃんに呼ばれて僕たちも悪霊さん同様あわあわしながらローカルヤンキー二人に近付いた。 と、その瞬間。 【ニンゲン!!】 「うわぁ!?」 「クソッ」 悪霊さんがグワッといきなり僕らに向かって飛びかかってきた。 黒い闇が僕と悠馬くんを包み込む感触が生々しく伝わってくる。嫌だ、嫌だ、この感じ。早く何処かに行って…! どろどろした重さがのしかかってくる。気持ちが悪くなる。何もかもどうでもよくなってきた。 哀しみ、憤慨、絶望。 そんなマイナスな感情たちが僕を支配し始めた。 意識が遠退く。ああ、もう、ダメ。 闇が僕により一層濃く纏わり付いてくる。 「…っ、」 「た、ざきっ…」 悠馬くん手を握る僕の手が緩んだ。 「ダメだ!美月ちゃん!手を離すな!」 何処からか陽さんの声がした。 「田崎っ!!」 ポワッ、と暖かい灯に包まれる。隣で心配そうに僕を見つめる悠馬くんが見えた。 「はる、まくん…」 あれ、なんだっけ。この灯、前にも見たような…。心中から暖めてくれるこの灯… 「陽、さん…」 『鬼灯』 強い力に意識を引っ張り出された。 「だっ、大丈夫か?美月!」 気付くと目の前に黄汰くんが。隣には陽さんが立っていた。 「もう他は払ってきた。心配になって来てみたんだ。…大丈夫かい、美月ちゃん。」 「僕は…。悠馬くんは?」 「…俺も、なんとか。…なんなんだ今のは…」 悠馬くんもさっきのを体験したらしい。 「黄汰、あいつ、強い。あたしが何回も噛み付いたんだけどあんまり効かなかった…。」 「…ああ、俺も何回も術を試してるんだけど…。それに陽さんの鬼灯を喰らっても立ち直ったからな…」 琥珀ちゃんと黄汰くんが睨む先にはあの悪霊がまだ立っていた。身体がブルリと震える。いや、大丈夫だ、僕なら。大丈夫。 【チッ…ナカナカシブトイヤツラダナ】 「そっちこそ。美月ちゃん、悠馬。下がってて。」 陽さんはそういうと両手を広げて僕らの前に立ちはだかる。すると悪霊は待ってましたとばかりに陽さんに向かって黒いカタマリを振り上げた。不意打ちだ。陽さんは気付くのが一瞬遅く避けきれない。 【クラエ!】 「陽さっ…!」 ギリッ… 危ない―! 僕は目をつむってしまった。何秒くらい目をつむっただろう。辺りがしぃんと静まる。? 何が、起きたんだ?ゆっくりと、目を開けた。 「…危ない。陽大丈夫?」 そこには自身の身体から伸びている包帯で黒いカタマリの動きを止めている藍さんがいた。 「さあ悪霊よ。そんな物騒なもの仕舞おう。」 「喰らえ悪霊!固身!!」 裕也さんがその後ろから身につけていたマントを翻し、蝙蝠たちを出す。大量の蝙蝠たちは群を作って黒いカタマリにぶつかった。その衝撃でカタマリはバキィッと鈍い音を立てて粉砕された。 そしてそれと同時に涼さんがお札を悪霊に投げつけた。 【グア…グァアア!】 悪霊は低い唸り声を上げたと思ったらピタリとその身体を止めた。 【オマエ…ラァアアア!!】 恐ろしい雄叫びが耳をつんざく。 「黄汰!琥珀!行け!」 「はい!」「ウガアアア!!」 黄汰くんはビュンッと狐の姿になり、琥珀ちゃんは歯を剥き出して悪霊に食らいついた。 「美月ちゃん、悠馬。」 陽さんが手の平に鬼灯を貯めながら僕らの方をみた。 「君らの力も必要だ。頼む!」 ポウッと鬼灯の明かりが増す。僕らは共に顔を見合わせる。 「「はい!」」 力強く頷き、お互いの開いた手に拳を握った。 「行くぞ、田崎。」 「うんっ。」 そして、渾身の力を込めて悪霊に向かって拳を振り上げた。 バゴォッ! …………ペショ。 悪霊の左右からはそれぞれ力加減が全く違う音が聞こえた。 【ウ、ウワアアアアアアアアア!!】 しかし悪霊にはそれでも充分聞いたらしく悪魔のような叫び声を上げながら黒い霧となり夜空に消えていった。 |