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Let's Trick!



「はいはーい、陽さん質問!」
窓辺では陽さんがどいつを払ってやろうかな、なんて物騒なことを口走っている。僕はひょこひょことまるでお菓子をねだるこども様な足取りで陽さんの隣に寄っていく。陽さんは僕の存在に気付いたのか胡散臭い笑顔を浮かべる。
「何かな?答えられる範囲ならどうぞ。」
「うん。あの、さ。悪霊払いって具体的には何をするの?」
今まで自分の目の前で起こってきた様々な事柄の中での1番の疑問を投げかける。陽さんはうーん、と一回低く唸ると「黄汰。」と黄汰くんを呼んだ。黄汰くんは嬉しそうに後ろに生えた尻尾をぴんっと伸ばしながらこっちに近寄って来る。
「何ですか?」
「うん。それが美月ちゃんが具体的に悪霊払いを説明しろって。黄汰、早速なんだけど悪霊払い始めよう。美月ちゃん、とにかくやってみるのが1番だからね。」
「チビ美月があ?面倒だけど陽さんの頼みなら仕方ないっスね。おい、チビ!ちゃんとついて来いよな!琥珀、行くぞー。」
黄汰くんは本当に面倒臭そうに狐耳の付け根をポリポリと掻きながら窓辺に向かって軽く跳び上がった。琥珀ちゃんも「待ってました!」と叫ぶと黄汰くんの後に続く様に窓辺に飛び出す。
「え、あっ、えぇ?!って、ちょっと待って。悪霊…って何処にいるの?」
陽さんがさっき指を差していた辺りを見てみるが何も見つからない。何時も見ている風景が広がっているだけだ。と、突然隣(正しくは頭上斜め左)から悠馬くんの声がした。
「え、田崎、あいつら見えねーの?」
「あ、あいつら? 悠馬くんには何か…悪霊が見えてるの?」
「見えてるもあそこにいんじゃん。」
悠馬くんはそういうと陽さんが差した方と同じ方向を指差した。え、何々。悠馬くん霊感とかあるわけ?
「ん?悠馬には見えてるみたいだね。んーじゃあ悠馬。」
「なに?」
「美月ちゃんと手、繋いでみて。」
「えええ?!」「いいよ。」
そんな、ははは悠馬くんと手を繋ぐだなんて!わあああ陽さん貴方は神様ですか。
頭の中が一瞬ショートした、気がする。けれど悠馬くんはそんな僕の手をお構い無しに握った。
「じゃあ美月ちゃん。僕が指を差した方を見てみて。」
「えっ、あっわああ悠馬くんと!わああ!…じゃなくて、え、なに。…うわっ」
陽さんの指の先、そこには真っ白ろに虚無のような黒い穴が3つ顔のようにぽっかり開いた仮面を被り、黒いマントを羽織ったまるで死に神みたいな恰好をしている連中が見慣れた町並みのなかにうろうろと歩いている。僕はそんな有り得ない、気持ち悪い光景を見てびっくりして悠馬くんの手を離してしまった。すると離したと同時に死に神たちの姿が見えなくなった。
「え、あれ。見えなくなった。」
「それは悠馬と手を離しちゃったからだよ。悠馬は多分悪霊とかそういうのが見える体質なんだろうな。しかも今日はハロウィンときた。何時もより霊感が強くなってる。だから悠馬と触れ合うだけで霊感がない奴でも見れるようになるんだ。ほら、だから美月ちゃん。君は悪霊払いの最中は悠馬と手を離してはいけないよ?見えなくなったら不利になるからね。」
「そ、そうなの…」
僕は隣(しつこいけど頭上斜め左)にいる悠馬くんを見上げる。悠馬くんははい、と手を差し出してきてくれた。
「見えなくなったら危ないもんな。それにこんな状況で田崎を一人するのも嫌だし。」
やっぱり悠馬くんは何時でも優しい。自分はあんな気持ち悪い連中が嫌でも見えてしまうのに僕の事を優先して考えてくれるなんて。僕は差し出された悠馬くんの大きな手を握った。悠馬くんの優しい温度が手の平を通じて僕に伝わる。僕はキッと前を見据えた。そこにはさっきと同じ様に死に神たちがうろついている。
でも、もう大丈夫。悠馬くんがいる。
僕は窓辺にいる黄汰くんたちの方へ足を進めた。
「お、やる気になったか。」
「美月、大丈夫?」
僕は、大丈夫。
大きく一つ頷いた。
夜風の香りが僕の頬を打つ。
「行こう。」







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