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今夜は10月31日



「ふあーぁ…」
時計の針はPM11:50を指している。いくら高校生でもこの時間は流石に眠くなる。僕の両瞼ももうそろそろ仲良くくっつきそうだ。僕もそんな睡眠欲に従順に身を任せることにしようかな。バサリと青と桃色の水玉が広がる羽毛布団に身体を包みこんだ。ふんわりとした暖かさが全体を支配し始め、夢うつつに僕は目を閉じた。

あと、10分であの日が来るとも知らずに。
あと、10分でハロウィンが来るとも、知らずに…。

『今宵ハロウィン。僕らもそろそろ準備と致しますか。』
『はいっ!! なんだかわくわくしますね!』
ハロウィン…ローマカトリック教の万聖節の前夜祭。悪霊を追い払う日で子どもたちが仮装し、家々を回る。
と、まあこんなふうに世間一般ではただのお祭りとして扱われているが悪霊払いの日とされているハロウィンだ。不思議な事が起こらないとは、限らない。
『Trick』
『or」
「Treat!!」
年一度だけ開かれる摩訶不思議な扉が快音をあげた。




真夜中。
午後11時を指していた時計の針はいつの間にかに午前02時を指している。そんな草木も眠る丑三つ時に僕は自室に一人、柄の長い箒を握りながら立ち尽くしていた。
「…あ、…成る程…さん…ですね!」
「僕は…だから…」
さっきまで眠り眼だった僕の目に映るのは二つの人影。いや、一つはなんだか猫のような狐のような耳が生えているようだから人間…ではないのだろう。
何なんだろう、あの二つの影は。多分、いや絶対声からして悠馬くんじゃないのはわかる。っていうか悠馬くんだったら寝てても飛び起きるくらいの勢いでわかる。それでは一体誰なのか。まあそれがわかれば今こんなふうに箒を持ちながら立ちすくむこともないんだけど。
僕はそんな事を思いながらベッドから1、2m離れた場所にいる人影を睨みつけた。多分、こんな時間に勝手に人の部屋に入り込む輩なんてあいつらしかいない。箒を握る手が勝手に震えはじめた。だって仕方がないでしょう、あいつら―泥棒―に遭うなんて今まで一度も体験したことないんだから。しかし泥棒と一晩過ごすのも嫌だ。絶対に、嫌だ。
ゴクリと生唾を飲み込む。そして、威を決して奴らに向かって箒を振り上げた。
「うわぁぁあああああ!!!!!!」
「!!?」
「!! 陽さっ…!!」
バキィ!!!
ぶんっと箒は奴らには当たらずに宙を一回転して猫耳の影の奴の手に収まった。
「あっぶねぇなあ!! ゴラァ! チビ!! もしも陽さんに当たったらどうすんだよ?! …陽さんっ大丈夫ですか?!」
「ああ…僕は大丈夫だよ…。邪気眼が僕を守ってくれたみたいだ…」
「いや、助けたの俺ですよ?」
僕の目の前で二つの影はそう言い合っている。そんな余りにもおかしな状況に僕は目をまんまるくして口をポカーンと開けたまま見ていた。そして流石、人は上手く出来てると思う。危険を察知したら直ぐに助けを呼ぶ。これくらいの事は僕にもきちんと備わっていたらしい。
「………う、」
「「う?」」
僕の発した一言に影たちは気づき、首を傾げた。

「うわああああああああ!!!!!!!」

僕の叫び声が響き渡った。

「!!?」
「うわっ、ちょ、おまっ、黙れって!」
「だだだ誰だよ、君達! 何?泥棒?泥棒なの? うわああ、おねっお姉ちゃん!お姉ちゃっ…もがっ」
混乱したまま猫耳が僕の口を押さえ込んだ。僕はもがもが言いながら手足をじたばたさせていたが、人影の方はそんな事はお構いないかのように僕に向かってある一枚の紙を差し出してきた。
それは、暗闇ではっきりとはわからないが名前らしきものが書いてあるところから名刺のようだ。

『妖堂本店 設立者 陽(鬼)』

と書かれている。僕はそれをいかぶしげに受け取ってみる。すると名刺を渡されるのと同時に口を押さえていた手も解けた。きっとこの陽とかいう男が外せという合図を出したのだろう。僕は少し咳込みながら口を開いた。
「なんなんです、これは…」
「まあ、まあ僕らの正体はまた後で。それよりも…」
陽は流暢な語り手で話すと趣味の悪いマフラーをバサリと翻した。
「こんばんは、田崎美月さん。」
顔に怪しげな笑みを浮かべながら。







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