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僕を、殺して。




「は?」


突然、屋上なんかに呼び出されたから何かと思って来てみればこの様だ。
一体全体、この男は何を企んでいるのだ。

いや、…何を考えているんだ。

俺は目の前の賑やかなニット帽の隙間から見える真ん丸の漆黒の瞳を睨みつけた。


「だぁかぁらぁ、これでぶち抜いてって言ってんの。」
「……意味が解らない。」


意味が、解らない。
目の前にいる男、松野空介の言っている意味が解らない。いや、理解したくない、の方が近いだろうか。
取り敢えず、警察官が持っているような小型拳銃を自らの頭に当てたまま ぶち抜け なんて理解しがたい。




今から、15分くらい前。

昼休みも半ばを向かえたところ。
俺はいつも通り、クラスメイトと楽しく談話をしていた。

そんな最中だった。
突然、松野が屋上に来て。なんて言いだしたのは。


「なんで??」


そんな素直な疑問を前を歩く松野の背中にぶつけてみるが、松野はずっと 来ればわかるよ。しか答えない。
こうなったら、松野は絶対に答えてくれないのは長年付き合っているからわかっていた。
だから、俺も敢えてそれ以降は何も言わないでついて行くことにした。

そしたら、これだ。
一体、本当に、何がしたい…?




松野は口を尖らしながら、頭を横に倒した。


「…半田、頭、悪くなった? 僕の日本語理解出来ない??」
「理解しようがないだろ。その、」
「拳銃を自分の頭に突き付けてることが? それとも、半田に僕を殺してって言ってることが?」


松野は依然と自分に拳銃を突き付けながらそんな恐ろしいことを口走る。
背筋にひんやりとした汗が伝った。


「どっちもだよ…。っていうか、なんでそんなこと言うんだよ。お前は死にたいのか?」


穏やかな青空の下、俺は何てことを言っているのだろう。と思う。現実逃避さえもしたくなる。だけど、これが現実なのだ。
だって、こんなに頭が重く、怠い。
けれど、松野はそんなのお構い無しに見たことのない笑顔で俺を見返してきた。


「よくぞ聞いてくれました。」


そういう松野には悍ましさを感じた。


「僕、いつもいつもいつも、自分の死に方を探してるの。いや、どうすれば理想の死に方を出来るか、の方が正しいかな。」

「でね、その理想の死に方を最近見つけたんだ。それはね。」


カチャ、と拳銃の嫌な音がして、俺の手の平にはずしりと重みがかかった。
何がのせらたのかは大体予想がつく。

あの、拳銃だ。

それを見た途端、喉からはひゅーひゅーと渇いた空気だけが零れ始めた。


「大好きな人に死に際を見てもらうこと。だって、死ぬ時も大好きな人に見ていてもらいたいじゃないか。でも、自分で自分を殺すのはだめ。なぜならね、大好きな人に殺された方が長く僕を見ていてもらえるから。わかる?」


松野はそう一気に話すと、次に俺の手に握られた拳銃を自分の頭に突き付けた。
俺の手は自然とブルブルと震えはじめる。
奥歯がカタカタと音を経てはじめた。
足はもうすぐ倒れてしまいそう。


「半田、君は僕が1番愛して愛された人間。それはこの先も永遠に変わらないよ。うん、きっと、君以上に僕が愛して愛される人間はいないと思うんだ。それくらい、僕は君を愛してる。」


拳銃のひんやりとした冷たさが俺の手の平を通じて伝わる。
嫌な、冷たさだ。


「だから、僕を、殺して。」


指を引き金に当てがわれる。


「い…やだよ、いやだ。」


喉からは震えた情けない声が漏れる。


「ふざっ、けんな。…死ぬ…とか馬鹿げたこと考えんな…よっ。」


そうだ、そうだよ。
何が理想の死に方だ。
ふざけるな。そんなのお前の独りよがりじゃないか。


「俺、は許さない…からなっ、そんなの。」


気づくと目尻がじんわりと熱くなっていた。


「絶対に、許さない…、もし、もし、ここでお前が死ぬっていうならっ…お前の死に際なんか、…俺がっ、俺がっ」


嗚咽混じりの言葉たちは、ぽたぽたと渇いたアスファルトに落ちていった。


「1番最初に忘れてやるっ…!!!」


なぜか、お前に教えてやる。




パンッ………………




「俺が1番、松野を好きだからっ………」


渇いた発砲音が屋上に響いた。
目の前には大きく目を見開いた松野。
頭には、先程まで松野に突き付けられていた拳銃の尖端。



拳銃の中身は、空っぽ。



耳がきーん…と情けない耳鳴りを鳴らし始めた。



そんな、穏やかな昼下がり。



「…………まさか、自分を撃つとは思わなかった。」


びっくりした黒目がちの真ん丸い瞳は徐々に笑みを込めはじめた。
俺の頬も徐々に赤く熱を帯びはじめる。




「四月ばかだよん。」




空には腹が立つ程の白い雲。
いや、実際これまでにないくらい腹はたっているんだけど。


「僕が早死にでもしたいって思うと思った?」


そのにやけ顔、ぶっつぶしたい。


「ま、でもいい事聞いちゃったしね。」


ってゆうか、本当にしねばいいと思う。


「僕も1番、半田を好きだよ。」



松野は憎たらしい程の幸せそうな笑顔でそう言った。



「ふっざけんなっ!!!!!!」




4月1日、雷門中に今年1番の大声が響き渡りましたとさ。






(ほんとは死ななくて良かったって思ってるなんて死んでも言わない!!!)



End







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