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素直じゃないところも可愛い



「ねえ、半田?」
「……なに。」


静かなオレンジ色の教室の中で松野と二人、俺は一人でふて腐れながら机に突っ伏している。外からは部活をしている生徒たちの賑やかな声が聞こえる。そんな空間とは正反対の教室は少し異様に感じた。
俺は楽しそうな口調で俺に話しかけてくる松野に面倒臭そうに返答をする。松野はそんな俺の何がおかしいのか、クスリと一つ笑い声を落とした。


「なんでさ、あんな回りくどいことしたの?」
「…はあ?」


ムクリと上半身を起こし、俺は松野と向かい合うような形になる。カチコチ、カチコチと秒針の進む音だけが耳に入って来る。


「何が回りくどい、だよ?」
「だからさあ…」
「…っ!?」


俺の顎を松野が上へ持ち上げた。
突然、松野の端正な顔が目の前に来たものだから一瞬脳内がフリーズした。


「なんで、素直に僕が半田のこと好きなのか聞けないのかなぁ、って。」
「……!!…なっ……」


顔を中心に全身の血が集まってくるのがわかる。今、物凄く顔が熱い。早く冷ましたい。
だが、松野に顎を捕まれているためほてった頬を冷ますことは無理なこと。目頭もじわりと熱くなってきた。


「あーんなことしてさぁ。何ー?僕ならラブレターの返事なんて断ると思ってた?でもそれでどうするつもり?もしかしたら、半田に内緒でラブレターの子に返事しちゃうかもしれないじゃーん。」


鼻の奥がつーんとする。
確かにそうかもしれない。あんな回りくどいやり方をしても松野が本当に俺を好きかどうかなんて分かるはずなんてないんだ。
今だってこんなことして余計に松野に嫌われてしまうかもしれない。


「そ…れは……」


本当は凄く不安だったんだ。
勿論、付き合おうと言ってきたのは松野だし、いつも飽きるほど好きだ好きだ言ってくるのも松野。
でも、俺はこんな性格だから好きだのたった3文字さえ言えないし、自分から何かアクションを起こすこともできない。
しかし、それでも俺が松野を想う気持ちは日に日に増えていって。

それでも、自分の気持ちを伝えられない自分が日に日に嫌になってきて。

ある日思ったんだ。
こんな、自分でさえこんな自分が嫌いなのに松野はどうしてこんな自分を好きだというのだろうか、と。
もしかして、本当は松野は自分を嫌いなのを隠して付き合っているのではないだろうか。

だって、だって、松野は優しいから…


「…ねえ、半田くん?」



いつだって……


「大丈夫だーよ。返事は全部断るし、」


こんなにも優しい。


「僕はね、」


こんなに優しい彼が


「おバカで、単純で、中途半端で。」


大好きで、死ぬほど好きで


「そんな半田が大好き。」


でも、気持ちはそれに比例するかのように


「半田は?」
「…っ…ばか……」


素直じゃ失くなるんだ。


「はは、酷いなぁ、半田くんはー。」
「…なっ、だって…。」


そんな自分が死ぬほど嫌いだけど


「まあ、でもさ、素直じゃないところも可愛いくて好きだよ。」


君が好きだと言うのなら、少しは好きになれるかもしれない。




04.素直じゃないところも可愛い
End




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