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俺以外に騙されるなよ


「……」
「……、」


俺と松野、二人っきりしかいない教室に淡いオレンジ色が色を点けはじめた。
俺たちは暫くの間、沈黙し続けていたがそんな沈黙を突然松野が破った。


「…なぁんてね。」


松野はそういうとクスクスとまた笑いはじめる。


「わざわざ半田が僕にラブレター渡したりなんかする訳無いよねぇ。ごめんね、半田。変なこと言って。」
「……はあ?!」


もしかして、松野は本当に騙されているのか?

嫌な考えが頭に過ぎった。


「…ごめんね、半田。」


だと、したら…

心臓がまた大きく脈を打ちはじめる。ドクン、ドクン、と松野の次の言葉のカウントダウンをしているかのようだ。
ああ、既にこんなにも早く心臓が鳴っているのに、松野が言葉を発してしまったら心臓はどうなってしまうのだろうか。ポンッ、などと言って爆発してまうのではないだろうか…。


「やめ…ろよ、松野、まつのぉ」
「ごめん、半田。僕、もうね…」


―――――――――止めて…!!!!!


カラカラカラ…


心臓が、ドクン、と脈を打った。


「!!?」


俺が立っているドアの壁を挟んだ隣のドアが開く音がした。


「ああ、待ってたよ。」
「……」


後ろのドアには、一人の女の子。
多分、松野のクラスメイトだろう。松野はその子に向かって軽く手を振った。


「松野くん…」
「えぇと、井上さん、井上薫ちゃんだよね? …返事は、こうゆうことだから。」


松野はそうゆうとイノウエカオルちゃんに向かって持ち前の笑顔を見せた。その笑顔にイノウエカオルちゃんは一瞬、悲しげな顔をしながら小さな声で「ありがとう、」と呟く。


「…え、? …なに、これ。は?」


一方、今の状況に取り残された俺は何がなんだか解らなく一人あたふたと慌てている。全くもって場違いな俺。


「ううん。こっちこそ嬉しかったよ。」
「…松野くん…、ねぇ、一つ聞いていい?」


俺はただただ、俺からは程遠い青春の一部を見ながらぽけーんとほうけ顔をしている。
今、何が起きているんだ?


「何?」
「…松野くんは、好きな人、いるの?」


スキナ人?
俺はその言葉に松野の方を見つめ返した。すると、松野はびっくりする程の柔らかい笑みをイノウエカオルちゃんに向けながら口を開いた。


「いるよ。…おバカさんでアホで意地っ張り。だけど、すっごく可愛くて…誰にも渡したくないって思えるくらい好きな人が。」


サァ、と優しい夏風が教室に入り込んだ。


「…そっか。そんなの、私が入る隙もないみたいね。……ありがとう、松野くん。」


カラ、とドアが閉じる音がした。


「どういたしまして。」


松野がそういうのと同時にパタパタと上履きが廊下を走る音と、少女のしゃくり声が少し聞こえた。




また俺らは教室に二人きりになる。
俺は今だに状況が整理出来ていない。ただ、解るのは松野がイノウエカオルちゃんをフッた、ということだけ。

いや、違う。違くはないけど、違う。
なんで、俺が出したラブレターの差出人がイノウエカオルちゃんになっているんだ?
しかも、松野が教室にいてフるってどうゆうことだ?


「半田。」


と、また突然、松野が名前を呼んだ。そのせいで俺の肩は上に少し跳ね上がってしまう。


「こうゆうことだから。」


こうゆうこと?


「どうゆうこと?」
「だから、ラブレターの返事。」
「…返事? イノウエカオルちゃんの?」
「は? あ、まぁ…それもあるけど…」


はぁ、と松野が大きく溜息をついた。そして何やらかばんを漁りだした。


「もしかして、訳分かってないね。」


そうゆう松野の手に持たれている2枚の封筒。どちらも同じ花柄だ。


「こうゆうこと。」


朝、俺が松野の靴箱に入れた花柄のラブレター。


「1枚は井上薫ちゃんからの。」


松野が、「2枚目は」と口を開いた瞬間。
俺はこのトリックの全てを理解した。


「あああああ!!!!!!!!! 騙したな!!!!!」


俺の予想の遥か上のことに俺は大声で叫んだ。


「…騙したのは、半田でしょー?」


松野はやれやれと頭を振りながら「でも、」といいニヤリと笑った。


「まあ、僕も少しは騙したけどね。」


また顔が赤くなってきた、ような気がする。


「まあ、うん。僕以外に騙されないでよね。」


なんだか、かんだか
松野には勝てない気がする。




03.俺以外に騙されるなよ
End







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