顔真っ赤にして否定されても キーンコーンカーンコーン... 学校お決まりの授業終了の合図が教室に鳴り響き、一斉に椅子の脚と床が擦れ合う音が俺の耳に鳴った。それから、教室のあちらこちらでは生徒同士のたわいのない会話が聞こえ始め、俺はそんな雑音に耳を傾けながらこれから始まる部活に備えて準備をしていた。しかし、今日は部活の準備さえも億劫に感じてしまう。 それこれも、松野が今朝のラブレターの返事を承諾するとか言っているせいだ。 普通なら多くの人は、こんなことはたかが中学生の甘酸っぱい恋愛沙汰だ、等と言い流してしまうことだろうが、俺たち、少なくとも俺にはそんな風には片付けれるような問題ではない。 なぜならば、俺と松野は大きな障害を持っているが正真正銘の恋人同士なのだから。 男女の恋人同士なら尚更だろうが、自分の恋人が見ず知らずのラブレターの返事にOKするなどと言っていたら焦るものだろう。 しかし俺自身、そんな見ず知らずのラブレターが松野に届くという事実はそれ程大した問題ではなかった。 と、いうよりもラブレターが届くことを知っていたというか、想定内の事だったというか まあ、言ってしまえば、ラブレターの贈り主は俺、半田真一なのだ。 なぜそんなことをしたのかと言われると理由は簡単、一つだけ。 松野が俺に対してどんな想いを持っているのか知りたかったから。 これだけだ。 回りから見ればそんなちっぽけな事、こんな回りくどい事なんてしないで本人に直接聞けばいいだろう、とか思うかもしれない。しかし、今の俺にはそんな勇気などない。だから、こんなくそ面倒臭いやり方を選んだのだ。 けれど、まぁ。今の状況だ。大失敗。 松野の答は俺の予想範囲の斜め45度を綺麗に通過していった。 「はあ…」 俺は大きくため息を着き、茶色くなったユニフォームを中学のシンボルの稲妻マークが着いたエナメルバッグに出したり閉まったり意味のない行動を繰り返していた。 「…なんなんだよ……あいつは……」 何を考えているのか、さっぱり検討がつかない。なぜ、ラブレターの返事を承諾してしまうのか。松野なりに考えはあるのだろうけど、こんな俺を裏切るような真似までしてやるようなことがあるのだろうか。 俺の頭の中にはそんなマイナスな考えばかりがグルグル、グルグルと回っていた。 しかし、ここで松野の考えなど考えていたってしょうがない。ここは潔く松野に謝るしか手はないのだから。 俺は、エナメルバッグにユニフォームを押し込み、重いあしどりで自分の教室からでていった。 「…ばか…松野……」 俺と松野は違うクラスだ。松野は俺のクラスの隣の隣のクラス。だから、今日一日ラブレターについて話す機会など朝以外全くなかった。そのため、今、松野がどのような気持ちでラブレターの贈り主を待っているのか俺には全く解らない状況で余計に緊張する。 「…2年…3組…」 松野クラスだ。 教室には皆部活や帰宅してしまったせいなのか一つだけ人影が残っていた。 俺はゴクリと生唾を飲み込み、松野のクラスのスライド式ドアの取ってに震える手をかけた。すると、カラリ、と言うようなスライド式ドア特有の金属と金属が掛け合う音がし、教室の中の人影は人っ子一人いない廊下から覗く俺の存在に気づき、ゆっくりと歩み寄ってきた。 「半田」 「ま 松野…」 人影の持ち主、松野はにこりと笑うと少ししか開いていないドアをガラリと勢いよく開けた。 「どうしたの、こんなところで。」 松野は薄ら笑みを浮かべながら、俺に向かって話かけてくる。 俺はじんわりと冷汗が額を伝った。 「え、えと…」 喉に言葉が詰まる。 「僕、今、ラブレターの贈り主待ってるんだけど。」 頭の中がグルグル、グルグルめちゃくちゃに掻き混ぜられる。 「……あのさぁ、半田?」 今朝の出来事が走馬灯のように俺の脳内に蘇ってくる。 あのやり方が自然と脳内再生された。 『乙女のラブレター』 『で、どーすんの。そのラブレターの返事はさ。』 『…僕、教室、残ってみようかな。』 脳内で再生されるチャイムの音と松野の言葉。 『試す……した………だ……』 脳内再生はそこで停止する。 『試すような真似したって無駄』 目の前には、夕日に照らされいる松野がいた。 「ラブレターの送り主、半田でしょ」 体中が熱を放ったように熱くなった。まるで、全ての血が凄い勢いで逆流を始めたような感覚。 脳内は真っ白にフリーズ。 「ね?」 俺は無意識で首を左右に振っていた。 すると、松野一瞬大きく目を開いたあと直ぐにクスクスと笑いはじめていた。 「ねえ半田? 僕ら、一応恋人同士だよ?? 顔真っ赤に顔して否定されてもねぇ」 バレバレなんだけど。 君はそうゆうとまたクスクスと笑っていた。 夕日が俺たちを眩しく照らす。 ラブレターの花柄がふわりと空を飛んだ 02.真っ赤な顔して顔して否定されても End |