短編 | ナノ



一足先の白雪に




まだ12月も始まった頃だというのに。
何処もかしこも緑の円に赤いリボンのリース。綺麗に飾り付けをされ頭に星のアクセサリーをつけた大きなモミの木。それからピカピカ光るイルミネーション。
街中はもうクリスマス一色だ。
俺はそんな雷門町を歩きながらはあと溜息を一つ吐いた。その時出た息は真っ白け。余計にクリスマスが近いことを感じさせてなんとも癪に触る。いや、癪に触るというよりかは淋しいという方がいいのだろうか。まあ、とりあえずこの季節になるとどうしようもなく淋しくなるのだ。何と無く取り残されているような気がして。
周りの幸せに何と無く乗り切れていないような気がして。

「…、」

イルミネーションを横目で睨みつける様に見ながら通り過ぎていく。その時、自分と逆方向に歩いてきた一組のカップルともすれ違った。畜生、幸せそうな顔をしやがって。しかしこんな自分勝手もいいところな負け惜しみさえも今の自分は胸の中でしか吐け出せない。なんだか情けなくなってきて何かの歌にあったように涙を零さないように俺は上を向いた。

「……あ、」

と、ヒラリと白が真っ赤に染まった鼻の頭に落っこちてきた。落ちてきたものは軽くて冷たい。

「雪…」

今年は残念なことにホワイトクリスマスになりそうだ。雪から逃げるように近くの店の軒下に潜り込むように入った。
それは何かの偶然なのだろうか。

「あれ。」
「あ。」

ふと、隣を見るとクリスマス一色の街には不釣り合いなニット帽とオレンジ頭が居た。

「やっと見つけたー、半田っ」

オレンジ頭は俺の顔を見てさっきすれ違ったカップルが浮かべていた表情と同じ表情をした。誰もが羨むような幸せそうな顔。

「…なんで、松野が…?」

街中のイルミネーションはよく状況を理解出来ていない俺を見向きもせず、雪が重なって淡い優しい明かりを醸し出す。余計にクリスマスを強調しているようだ。

「なんでって。せっかくのクリスマスシーズンだし。」

さっきすれ違ったカップルもそんな雰囲気に流されるように肩を寄せ合っている。

「やっぱりそうゆうのってさあ、」

松野はそこまで言い肩を寄せ合っているカップルにチラリと視線をやったあと、俺に向かって手を差し出してきた。満面の笑顔を浮かべながら。

「好きな人と一緒に楽しみたいじゃん?」

雪がヒラヒラと俺らの辺りを真っ白に染めていく。ああ、寒い。けれど手だけは寒くない。自分じゃない体温はこんなにも暖かいんだ。
緑と赤のリースも、綺麗におめかししたモミの木も、キラキラ光るイルミネーションも、今年からはクリスマスを楽しむ仲間になれるのかもしれない。


Merry Christmas!











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