秒針夢 俺は委員会の松野を待つべくもうれっきとした昼寝場となっている図書館へと足を運んだ。図書館は時々昼寝場として重宝している。ここはちょうどいい具合の静けさがあるので昼寝場としては俺は三ツ星だと思っている。そして今日も両瞼が仲良くなるようなちょうどいいのんびりとした空気と時間が流れていた。 「ふあぁ〜」 一つ、欠伸をだらし無くする。俺はかっぽかっぽと上履きを鳴らしながら俺専用の机にごろりと上半身を寝転ばした。そうすると、やっぱり、ほら。瞼と瞼が仲良くなり始める。俺の意識はその代償か、とろんと遠退いていった。最後に時計をみる。PM16:02。松野が来るまであと1時間半はあるだろう。それまでここで少しばかり昼寝だ。 ……‥‥‥・・・ 意識を手放してから幾分時間がたったのだろう。俺はいつの間にか夢をみていた。まあ、夢といっても大した夢ではない。何やら奇妙な音が聞こえるそれだけの夢だ。 ちっちっちっちっ...... しかし何なんだろう、この音は。さっきまでは全然聞こえなかったよな。 ちっちっちっちっ...... 聞き覚えのあるような、単調なリズム。俺は多分、夢の中である場所でそのリズムに耳を傾けた。 ちっちっちっちっ...... 暫くその音を聞いているとあるものが俺の頭を過ぎった。ああ、これは。時計の秒針だ。最近買ったばかりの腕時計の秒針が動く音だ。けど、なんで秒針の音なんかがこんなにもはっきりと聞こえるんだ? いつもは全く気にならない程なのに。こんなときだけ…。 ちっちっちっちっ...... まあ、いいか…。別に邪魔くさい音でもないし。寧ろのんびりとした図書館とぴったりだ。聞いていて不思議に心地がよくなる。単調なリズムなだけに俺のリズムも秒針に合わせるようになった。 ちっちっちっちっ ちっちっちっちっ またしても心地好い眠さが俺を襲ってきた。しかし抵抗するあれもない。俺はそのまま眠さに体を預け、もう一度深い眠りにつくことにした。 ・・‥‥……… 「…だ、んだ…は、んだ…半田。」 俺は聞き慣れた声に目を覚ました。重い瞼をゆっくりと開くと目の前には真ん丸い目ん玉で俺を見ている松野がいた。 「…んん〜… 松野。」 「おはよ。よく寝れた?」 「んー…? 寝れた。ぐっすりと。っていうか今何時…?」 眠い目を擦りながら松野に聞くと松野は面倒臭いという様な表情をしながら俺の腕に巻き付いている時計を指差した。 「今? そんなの自分の腕時計見ればいいじゃん。折角買ったんだから。」 「…あ。うん。」 ちっちっちっちっ..... 時計から夢の中で聞いた音が流れていた。やっぱりあれは秒針の音だったのか。 「5時だ。」 「5時ぃ? ふあ…なんか僕も眠くなってきちゃった。」 松野は眠たげにそう言うと俺の隣の席に座りながら上半身を投げ出した。 「はあ? 何言って…」 「……すー…すー……」 もう眠っていやがる。 「…はあ、」 ちっちっちっちっ 松野も、俺にとっては秒針のようなものかもしれない。いつも俺の回りをぐるぐると回っていてそれが当たり前になっている。だから気づくのが難しいのだ。 「マイペース。」 そっと隣で無邪気な寝顔をしている松野の頭を撫でてやる。さらさらとした肌が妙に気持ちいい。 と、その時。 「…!! うわっ!」 突然自分の上半身が右に傾いた。 秒針の音と同じで君のリズムもまた心地好いことに。 「もう一眠り、しようよ。半田。」 …起きていたのか。 「おやすみ。」 しょうがない。もう一眠りしようか。ちょうどまた秒針の音が響き始めた。 End |