殺せるのならば. (暗い/ヤンデレ?) たまにふと思う。 もしも、人間を殺してもいい世界なら私は何人もの人間を殺すだろう、と。 「ばかだろ。お前。」 ある日、そんなくだらない事を晴矢に話したら見事一蹴された。 「馬鹿じゃない。」 「…はいはい。」 晴矢はそう適当に返事をする。私はその返事に自分でも分かるくらいムスッとした表情でカーペットがひかれた床に乱雑に座った。 「で、何。用はそれだけかよ。」 「…まあ、そうだが…」 はあ、と上から溜息が聞こえた。上を見上げると晴矢が呆れたような顔で私を見つめている。 「くっだんね。」 と、晴矢は言葉を投げ捨てるように吐いた。 「………くだらなくなどない。」 自然と拳に力がはいる。先程あんなにもこの拳を使ったせいだろうか。拳の骨の部分がひりひりする。なぜか激しい虚無感が私を襲った。 「くだらねぇよ、人を殺すとか殺さない、とか。そんなの頭がイッちまった奴が考えることだ。」 晴矢がそう言った瞬間、私の体は高くあがり、目の前で座っていた晴矢に覆いかぶさるような形になった。本当に衝動的だったが、許せなかったのだ。いくら晴矢で有ろうと私を否定されることは許せないのだ。 「…んだよ、風介…」 「私はただ…」 目頭辺りがきゅうと熱くなり、鼻の奥がつんとする感覚が私を支配する。悔しくて、悲しくて。こんなにヒリヒリする拳が惨めで、惨めで、 「お前を守りたかっただけなのに…」 先程までこの近辺でサッカーの練習試合が行われていたらしい。点差は20-3とお日様とかかれたチームの圧勝だ。 「お前のことをぼろくそ言ってる奴らから…守りたかっただけだ」 『プレイが乱雑だ。』『力だけで勝っているようなもの。』『さすが、孤児。』『親がいないだけであんなことが普通にできるんだな。』聞きたくない言葉たちが私の頭のなかをグルグルグルグルとループを始めた。違うのに、晴矢はそんなことしないのに。私は1番よく彼を知っているのだ。なのに、なぜ何もわからないお前たちに晴矢の悪口を言われなければならないのだ。 「私は、お前のためなら、何人だって殺せる… 11人だって、16人だって…」 ぴくりと晴矢の表情が変わった。 「…風、すけ?」 「17人だって、100人だって、殺せるんだ…」 「お前、まさか…」 ああ、私はなんて弱いんだろうか。今だって晴矢に助けを求めている。晴矢の肩に置いた手からはうっすらと鉄の匂いがする。 「…晴矢…晴矢……」 「どうして、」 ポタリと涙が零れた。恐怖と哀しみで胸はいっぱいになり、血が付着した手の平は小刻みに震えている。 「…まだ、この世界は人を殺してはいけない世界なんだ………」 ただ、私は、君の敵を排除したかっただけなんだ。 End |