短編 | ナノ




(※2部構成)
  それでも朝は来るのです 前編をお読みになってからこちらをお読み下さい。




ボスンッ


「……………」


散々大声で騒いでから、倒れるように体を沈めたベッドの寝心地は最悪だった。
色々な感情がぶつかっては消え、ぶつかっては消えという単調な作業をベッドの上で繰り返している。
怒りや哀しみといった、−の感情が。

俺は、そういった気持ちの悪い感情を拭うかのように体を俯せから仰向きに向きを変える。
すると、気付かない内に空は夜の風景に着飾っていた。
窓から見える星は、ピカピカ ピカピカ今の気持ちを嘲笑うように綺麗に光っていた。
そんなムカつく星の上には、母親みたいに大きな三日月がまたムカつく程綺麗に光っている。


「…、」


俺は、月光りだけで照らされている部屋を見上げながらゆっくりと瞼を閉じた。
瞼を閉じると、回りは当然のように闇に包まれ、自然と今までの記憶が瞼の裏を流れ星のように流れていく。
その中には、今さっきの喧嘩の内容。
そして、


「…………っ!!」


一週間前のホワイトデーの思い出が蘇ってきた。


「……そ、……んな…」


俺は慌ててベッドから飛び起き、震える両手で自分の頭を掻きむしった。
髪の毛からはさっき風呂場で使ったシャンプーのストロベリーの匂いがハラハラ鼻につく。


一週間前

「ねぇ、半田。」
「…何?」


またどうせ、面倒臭いことだろうと思い適当に返事を返す。


「うぅ、あのさ、明後日ホワイトデーだよね。」
「え? …あぁ………お返し…??」


1ヶ月前、もう押し付けられるように貰ったバレンタインデーのチョコレート。


「あれさぁ、僕の手作りなんだよ。」
「あぁ、うん。それ、30回くらい聞いた。」
「あれ、そうだっけ?? まぁ、いいや。だからねっ、半田っ!!!」


素っ頓狂なリクエスト。


「半田も手作りでお返しちょーだい??」
「……はっ???」


それから、鼻につく苺とたくさんのクッキー作りの材料。
今、全ての記憶が頭に戻ってくる。

あぁ、そういえば。
あのまずい、まずいクッキー、ほんのり苺の味がした。

あぁ、そうか。


「………そんな…」


アの、クっきーハ オレがツクッた くっキーだっタンダナ?


松野があれ程激怒した理由が頭の中を駆け巡っていく。


『まずかった。』


たった、それだけの言葉なのにあんなに松野が怒った理由。

自然と涙が目か零れ落ちた。


『わー、半田が作ったの? 変な形ー』


『…ありがとっ!! 半田、大好き!!』


あの時の松野の笑顔。

松野にとってはブサイクでまずいクッキーも大切なものだった。
だから…作った張本人にでも侮辱されて、あんなに怒ったんだ。


気が付くと、足は冷たい廊下に向かって走り出していた。

ごめん、と言いたくて。
それから、それから。




長く、苦しい夜が訪れたとしても、


「松野っ…!!!!」


それでも、例外なく、


「……っ!」


いつか、きっと


「ごめん…」


朝は来るのです。


「ありがとう、松野。」


僕らに、少しでも明るい未来に近づけるために。




End









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