短編 | ナノ




(2部構成)



「………ぅうぁぁああああああああ!!!!!!」


隣の部屋から、馬鹿でかい叫び声が聞こえたものだから急いで隣の部屋に駆け込んでみたら松野が凄い顔で空っぽのお皿の前で頭を抱えていた。


「………ま、つの?」


とりあえず、世界の終わり みたいな顔をしている松野をこちらの世界に呼び出してみる。
そしたら、なんと。
世界なんか終わってはいなかったんだ。




「ど、どしたの?」
「……い……」
「へ?」


よく、聞き取れない。
そんなに絶望的なことが起ったのか、松野の声がいつもの馬鹿明るい声とは真逆の声をしていた。


「……ない……ない……」
「何が?」
「…………………僕の、クッキー……」


ガチャッ。
ドアを捻るお馴染みの音が耳を引っ掻く。
よし、じゃあ、さっきまで読んでいた今週のジャ○プでも読もうかな。
きりは、あのあとどうなちゃったんだろう。
気になるなぁ。


「待ってよ、半田っ!!」


と、ジ○ンプの続きを読みに行こうとした俺の足を松野の声が止めた。
冷たい廊下に半分投げ出された足がするすると松野の部屋に戻っていく。


「なんだよ、しょうもない事で一々騒がないでくれよ。どうせ、そのクッキーだって松野が気付かずに食べちゃったんだろ。」


ハァッとため息が零れる。
だって、そうなんだから。いつも、いつも。


「そんな訳ないよ!! 今回は、絶対に!! だって、2時間前円堂にゲームを進めるのを手伝わされた時はちゃんと3枚残ってたもん!」


松野は手をグーの形にしてブンブン顔を左右に振っていた。
そして、その動きと反比例するように俺の動きはピタリと止まっていった。


「…2時間前… 3枚?」


ヒヤーと冷や汗が頬を伝うのが分かる。


「…それ、食べたの俺だ…。」
「………え?」


2時間前。
一人で自主練をしていて、その帰りにあまりの空腹に松野の部屋に置いてあったクッキーを食べてしまったのだ。
あちゃー…


「ごめん、松野。でも、あのクッキー、めちゃくちゃまずかったぜ? まぁ、あまりの空腹に全部食べちゃったけど。…あれだな、空腹は最高のスパイスってやつ。」
「…………………」


なんとか、許しを請おうとヘラヘラ笑って謝ってみるが、それが間違いだった。

再度、謝ろうと松野方を向き直った瞬間、スコーーンと凄い音を経てながらクッキーの並べてあったお皿が俺の額にクリーンヒットした。
皿がプラスチックだったのが、不幸中の幸いだ。


「………いってぇえええ!!!!!!」


じん じん と額が鈍い痛みを発する。
多分、赤く腫れているだろう。
多少涙目で皿を投げた本人、松野を見上げると、松野は珍しく息を荒くして俺を見下していた。


「………まつの………?」
「…出てって。」
「…は?」


意味が解らない。
松野の言っている意味が。
出てけ? なんで? 意味が解らない。


「出てって って言ってるの。意味、わかんでしょ?」
「わかんないよ。なんで? 突然。クッキー食べちゃったから? だから、それは謝ったじゃん、ごめん。」
「…違う…!! だから、出てって!!!」


松野の怒鳴り声がチクリと俺の胸にささる。
自然と目は松野を睨みつけていた。


「………意味、わかんねぇ。違うなら、ちゃんと訳、言えよ! アホ松野!!」
「でてけ!!!」


チクん チクん。
胸が痛い。


「あぁ、わかったよ。出てってやるよ、お前のお望み通り!!! じゃーなっ!!!!」


松野の部屋に置かれた惨めな俺の足は、乱暴に冷たい廊下に追い出され、俺の気持ちを表すように松野の部屋の扉は乱暴に閉められた。


「意味、わかんねーよ…。」




End


それでも朝は来るのです 後編に続く。



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またまた2部構成ですいません(´・ω・)
前々から書きたかった喧嘩ネタですが、書きたかったネタや文章を詰め込んだらこんなことに……。

それでは、ぜひ、後編もお読みください!


まちあ








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