僕だけの笑顔が見れる世界 (高校生〜大学生設定) 「何、それ。」 これを買うためにコツコツ、コツコツ硝子の瓶にお金を貯めてきた。そして、昨日やっと、念願のこれを買えたっていうのに。一目見た途端、この表情だ。どうでもよさそうな視線。そりゃ、君に取ってはどうでもいいのかもしれないけれど。 僕に取ってはどうでもよくないんだよ。 「一眼レフ。だよ、真一。」 「知ってる。ううん、違う、空。」 この間、わずか1秒ない。所謂、即答っていうやつ。 「なんで、そんなもの買ってきたのかって聞いてるんだよ。」 ズルリと手に持っているピー万円のカメラが手から落ちそうになった。僕はそれを何とか受け止める。 「なんでって…、そりゃあ、」 次の言葉を口から出そうとするのを躊躇っている僕に真一は早くと急かして来るものだから僕は渋々と口を開いた。 「真一のため、だよ。」 この一眼レフをそんな大した理由もないのに僕が買うはずがない。 でも、これを買ったのにはちゃんとした理由があるから。 君のため。 それはちゃんとした大切な理由。 僕はにこりと真一に笑いかけた。が、真一はその僕の答に気が食わないらしくはぁ?と眉間に大量の皺を寄せながら、僕を睨みつけてきた。そして、先程まで偉そうに腰をかけていた椅子から立ち上がり、僕に一歩、一歩と近付いてきた。 「空、ふざけん…」 かしゃっ 僕と真一の距離はファインダーを挟んで15cmあるかないかくらい。 真一はその距離でも驚いて目を丸くした。そして、何秒か間を開けたか何が起きたのか把握したのか顔を真っ赤にしながら僕から顔を横に背け、小さな声で「ばーか。」と呟いた。僕はそんな真一をシャッターが降りたばかりのカメラを手にしながらくつくつと笑った。 そんな生意気な真一の態度も今の僕、いやいつもなのかもしれないけど。とても愛らしく思えた。 顔を真っ赤に染める君。 怒って、僕を睨みつける君。 そして、 「ほら、笑って。」 この一眼レフを買った理由。 「空っ、お前っ…」 「こら、こら、真一くん、君は今、モデルだよ?」 「はあ??」 僕はまた真新しいカメラのレンズを真一に向けた。そして、小さな小さなファインダーからその向こうにいる真一を覗き込む。シャッターを半押しし、ぴぴっという電子音が鳴るとファインダーに映る真一がくっきりと見えた。 その瞬間、ぴたりと回りの物が動くことを停止した。 いや、停止しざる得なかったのだ。 「しょうがねぇーな。1回だけだからな。」 ファインダーの中の世界は、 あまりにも小さく、 「…ほらっ、早く撮れよ!!」 あまりにも美しかった。 ファインダーに映る君の笑顔。 かしゃ―――――、 柔らかなシャッター音、そして一瞬の闇。 美しい世界。 君の笑顔。 それこそが一眼レフを買った理由。 ファインダーを覗けば僕だけに見せる君の笑顔が見たくって。 それだけのためにこのカメラを手に取ったんだ。 そりゃ、何気ない日常で見せてくれる君の笑顔が何よりも大切で宝で大好きだけど。 欲張りな僕は思ってしまう。 その笑顔をいつまでも残しておきたいって。 それでカメラを買うなんて、安易な男の考えかもしれないけど。 でも、 「ん、可愛い。」 「かわっ??!」 何時までもその可愛いままの君を見ていたから。 「可愛いよ、真一は。」 大好きな君を。 「う、うるさいっ ほらっ、カメラ貸せよ!」 何時までも。何時までも。 大切にしていたいんだ。 かしゃ―――――――、 コルク板には、僕ら大切な思い出。 END |