短編 | ナノ



がんばり過ぎ屋さん




「はい、これ。」
「あっ、サンキュー」


松野から手渡されたボロボロのノート。
可愛らしい字で『サッカー部 練習日記』と書かれている。
俺はそのノート見て、よし。と小さくやる気を出した。


「あんまり頑張り過ぎて倒れないでよねー。まだ、病み上がりなんだから、中途半田くんは。」


松野はふぅ、と嫌みっ気ため息をつきながら、偉そうに腕組みまでして軽く笑った。


「あ?うぜー中途半田言うなっ。いや皆に追いつかないといけないから…」
「ふーん。ま、程々に、ね。」
「ん、ありがとな。」


夕暮れのグラウンド。
俺は昨日まで熱を出していたため出来なかった練習を取り戻すため、一人でサッカーの練習を始めた。
あのノートは秋たちがいつもサッカー部の練習風景を記録してある。しっかりと細かい所まで書いてあるノートは一目見れば今までどんな練習をしてきたのかが分かるようになっている。
俺みたいに何日間か休んでいたりする者には大助かりだ。


「え と、最初はっと… リフティング 200回…か、が、頑張ろう……」


ペラリと休んでいた所を開き、練習内容を確認する。
ちょっと目を疑うような内容がズラリと並んでいたが皆に追いつくにはやるしかない。
さぁ、頑張ろう。

俺は、ほっ ほっ とサッカーボールを足で蹴りはじめた。
今日、久しぶりに練習に出てみると皆びっくりするくらい成長していた。
やっぱり、一週間の休みは辛いと痛感した。
このままでは、レギュラー入りが危うくなってしまう。
それは絶対に嫌だ。なんとしてでも皆とサッカーをプレイしたい。
そのためには、どうしてもついてしまったこの差を埋めるしかないのだ。

そんな思いが俺の中に渦を巻く。
太陽はどんどん地平線に吸い込まれてゆく。
集中に集中を増した俺は時間というものを忘れ、無我夢中でサッカーボールを蹴りあげていた。




「はぁっ…はぁっ……………はぁっ……」


どれくらい蹴り続けていただろう。
薄茶色だったサッカーボールは真茶色に染まっており、空色も透き通る黒と変化をしていた。


「はぁ…はぁ…はぁ……」


額から垂れる汗が目に入る。それを拭おうと瞳を汚れる手で擦った瞬間。


「……?」


ぐにゃりと空間が歪んだ。
歪む、サッカーゴール。
歪む、汚れたサッカーボール。
そして、目の前に現れた派手な色のニット帽。

あ、倒れる。

本能がそう思った時はもう遅かった。
意識は黒い空に吸い込まれていった。





..........


歪む、空間、空間、空間。
それから、真っ黒な不安。

追いていかれる。

嫌だ、嫌だよ、置いて行かないで。
もう、ブラウン管で仲間の背中しか見れないのは嫌だよ。
苦しいんだ、悲しいんだ。

ちゃんと、握っていてよ。
お願いだから。
俺の手をちゃんと、ちゃんと。

握っていて…




「…だ…はん…はんだ…半田!!」
「…ぅ…わっ!!…ま、松野?」


ツンと消毒特有の匂いが鼻をつく。

目が覚めた途端オレンジ色の髪をぴょんとはねらせながら松野が抱きついてきた。


「ど、どうしたの…?」
「……馬鹿だよね、半田って。」
「…はっ?」


どうかしたのかと思い、松野に話しかけみるが突然 馬鹿 等と言われカチンとくる。
その衝動でベッドについている手を動かそうとした。


「…ん?」


動かそうとした手はぎゅっと松野の手に握られていた。


「……あのさ、なんでいつも半田はそうやって一人やろうとするの。」
「…松野?」


抱き着かれたままだから松野の表情は分からないがきっと悲しい顔をしているのだろう。
力強く俺の手を握る君の手がそう教えてくれる。


「…一人じゃ半分しか力出せないくせに。」
「……うん…」


君の体温がゆっくりと俺の体の中に入っていき、冷え切った体を温めていく。


「なのに。馬鹿じゃないの。もっと僕を頼ってよ。」


不安もいつの間にかにゆっくりと溶けてゆく。


「こんなにも、半田のことが好きなのに。」


ぎゅっと俺を抱きしめる腕が強くなる。


「悔しいじゃん?」


ごめんね。
不安なのは君も一緒だったんだね。

でも、そんな時はこうやってまた抱きしめて。
君を流れる血が、鼓動が、体温が俺をゆっくり安心させてくれるから。

だから、俺も君に同じ分だけ返してあげる。

血を 鼓動を 体温を。

同じ分だけ、それ以上、たくさんに。


「半田。」


君がいて、俺がいて。


「二人で頑張ろう。」
「…ん。」


それで、成り立つのなら、俺は喜んでそれを受け入れよう。

大好きな君と二人で。




End








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