短編 | ナノ



20億回の心拍数

(※出兵パロ)




ある本で読んだことがある。
人間の一生涯で動く心拍数は約20億回と決まっているのだという。


それを読んでいると、なんて人間は脆い生き物なのだろう、と思った。
たった、20億回、心臓が動いただけで死んでしまうなんて。

なんて、脆く、切ない生き物なのだろう




「晴矢…」


そう言う君の手がプルプルと震えている。
俺はその上からそっと己の手を重ねた。
ひんやりと風介の冷たい体温が手の平から伝わってきた。


「大丈夫だから。」
「いやだ、…いやだ。頼む…行かないでくれ…頼む……」


風介は潤む瞳で 行かないで。 と俺に懇願している。
その頭は冷える手と同じようにフルフルと震えていた。
俺は、開いた手で震える頭をぽんぽんと叩いてやる。
すると、安心したのか風介はぽすんと俺の胸に顔を埋めた。


「しょうがないさ、風介。お国のためだ。」
「こんな…国…滅びればいいんだ…」
「そんなこと言うなよ。大丈夫。絶対帰ってくるから。」


安心させるため、帰ってくる なんて言ってみるがそんな保障はどこにもない。
肌の色が違う人間と争いあうのだから。
でも、絶対に帰らなければ。


「…大丈夫。」


ぎゅっと風介の手を強く握りしめる。
先程よりかは、暖かくなった手はふわりと震えを止めた。


「たとえ、心拍数が19億9999万回になったとしても」


人間の一生涯の心拍数は約20億回。
そんな脆い生き物だけれども。


冷たい風介の手が俺の頬にそうっと触れる。
その冷たさが今は逆に気持ちがいい。


「絶対に、」


君を思う気持ちは、20億の心拍数よりも多いから。
この脆い躯がいつか、打ち砕けようと


「帰ってくるから。」
「……っ!!」


サァッと遅咲きの桜の花びらがひらひら舞い散る。


「この心拍数にかける。」


20億回以上の愛してるを君に捧げよう。


「…晴矢っ………約束だな…」
「あぁ。」


すっと冷たい温度が俺から離れた。


「晴矢、行くぞ。」
「ヒロト。…あぁ。」


同じ軍服をきたヒロトが心のない表情で俺にそう告げる。
遠くの方からは、ブォォオオと爆音をたなびかせながらたくさんの飛行機が飛び立っていっている。


一体この争いでいくつの心拍数が止まるのかは解らない。
けれど、この心拍数は決して止めずにまたこの地で音を刻もう。

たとえ、最後の1拍と成らずとも。


激しい爆音の中から、カランコロン と小さな下駄の音がする。
俺の表情も徐々にヒロトと同じ表情になってゆく。


「このっ…心拍数に…誓えっ…!!!!!」


一筋の涙を最期に。




End








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