短編 | ナノ



紅色

(※自傷癖表現あり)




サァーーー....


深夜。
洗面所の水がヒタヒタと赤色に染まっていく。
俺はただ、その変化をじっと見つめていた。


「…」


左腕に打ち上がる夥しい数の傷。
その中の1番新しい傷口はその赤色の理由をまざまざと語っていた。

まただ。
また、やってしまった…。

また、自分を傷つけてしまった。
もうやらないって決めたのにね。

君と。

君と誓ったのに ね。


「………半田…?」
「…!!?」


突然、洗面所の電気がつき、俺は驚いて肩を震わせた。
そして、ゆっくり、声のする方向に目を向ける。


「…松野、」
「…また、やったの? リスカ。」
「……」


松野は大きな黒目を細めながら、俺の腕を指差した。
俺は見られたくなくて、スッと腕を体の後ろに隠すしたが、滴る血はそれを許してくれなかった。
ポタポタと床を赤に汚してゆく。


「隠したって無駄だよ?」


一歩、松野がこちらに近づいてくる。

いやだ、いやだ。
来ないでよ。

条件反射に足は後ろに後退りする。


「…やだ…」


コツン、と壁に背中が辺り、気付いた時には左腕は松野のちょっと大きい手の中にあった。
その手は少し、震えている。
怒っているんだろうか…
目線を上に上げるとそこには胸を締め付けられたような表情の松野が俺を見ていた。


「…もう、やらないって言ったよね?」


その言葉は妙に重みを帯びていて、ただ静かに頷くことしか出来なかった。
ギリっと松野の手は傷口を締め付けてくる。
少し、ヒリヒリして痛い。


「なのに、なんでまた…やってんの?」


腕の痛さで俺の息は段々と途切れ途切れになってくる。
俺は口を小さく開けて、虫の息程の声で わからない と言った。

だって、本当なんだもの。
わからないんだ、自分が何故、こんなことをしてしまうのか。

自分を切って、嬉しい、楽しい、と言った感情は全くおこらない。

寧ろ、切った傷口は痛いくて、寂しい。

それなのに、俺はこの行為をやめることは出来ないんんだ。
気付いたら、いつもカッターナイフの刃が腕に突き刺さっているのだ。


「…前も、そう言ってたよね。わかんないって。」


フッと掴んでいた力が緩み、俺はそのまま松野の胸に頭がもたれかかった。
松野は退けようとする俺の頭をギュッと自分の胸に押し付けて、抱きしめてきた。

あぁ、こんなことしたら松野の服が俺の血で汚れてしまうじゃないか。

そんなどうでもいいことを考えながら俺はゆっくりと瞼を閉じた。


「…ねぇ、半田。」


名前を呼ばれ、返事の代わりに両方の腕を松野の背中に回した。


「また、こういう事したくなったら、自分じゃなくて僕を傷つけてよ。」
「……え?」


抱きしめられているから松野の表情は見えないが多分、酷く悲しい顔をしているのだろう。
それは松野の震える腕がそう教えてくれた。
あぁ、さっき震えていたのも、悲しかったからなんだね。


「僕なら、いくら半田に傷つけられても壊れないから。ねぇ、だから、お願い…」


さっきよりも力強く抱きしめられた。


「死なないで………」


そう云う松野の唇から紅の綺麗な血がこぼれ落ちていた。




End












「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -