愛憎様で。 テンッ、テンッ...... 白と黒の五角形が互い違いの模様を描いている、サッカーボールが自分の前に転がってきた。 「!」 そのサッカーボールに不動明王はじっと冷たい瞳をやった。しかし、サッカーボールはそんな瞳にも興味がないように静かに地面をコロコロと転がっていく。1、2m、ボールが自分から離れ不動はその場を離れようとした。 「不動!!ボールを取ってくれ」 遠くから聞き慣れた声が自分の名前を呼ばれた。不動はけだるそうにその声の方向に目をやり、明らかに嫌そうな表示を返した。 「不動、返事をしろ!」 「うっせぇな。クズ鬼道ちゃん。」 声の相手、鬼道はゴーグルをしているため表示はあまり読み取れないがズンズンと偉そうに歩いてくる姿と眉のつりぐあいからあっちも少なからず怒っているのがわかった。 「クズ? はっ、お前には言われたくない。」 「なんでだよ? お似合いだろ、クズ。」 憎まれ口を叩くと憎まれ口を返す。 「俺は、お前程のクズを見たことがないが?」 「何、言ってんだよ。そんなゴーグルしてるから見えないんじゃないか?? クズは自分自身だって。」 そんなくだらないやり取りをしながら、気付いたら鬼道は不動の目の前に立っていた。 「退け、不動。」 鬼道はゴーグルの奥からうっすらと赤い瞳を覗かせてくる。不動はその瞳にニヤリとしながら「嫌だね。」と返す。 「…全く、お前というやつは…。最低だな。」 鬼道は不動の返事にため息をつき、不動から1、2m離れたボールまで足を進めた。そして、腰を屈めてボールに手を伸ばした瞬間。 「…っ?!」 手はボールを掠め、体が2、3歩後ろへ後退していた。 そして、気付いた瞬間には不動の憎たらしい顔が目の前にあった。 0cm。 それが、今の不動と鬼道との距離。 鬼道の赤い瞳が、先程より一回り大きく開いた。 「…っ、」 たった、何秒かの短い時間だったかもしれない。もしかしたら、何分かだったかもしれない。 ただ、今の鬼道には時間の感覚が奪われ、目の前の不動にキスをされているという事で頭がいっぱいいっぱいになっていた。 「……ふ、どぉっ…」 やっと出せた声で不動の名を呼ぶ。不動はパッと鬼道から離れた。そして、ニヤリと怪しい笑みを鬼道に向けた。 「お生憎さま。最低で結構。」 大嫌いな、あいつからの、最悪なキス。 それでもこの唇の甘さと、体の熱は冷めることを知らない。 End 無理矢理過ぎるな。 |