短編 | ナノ



移り行く体温




ピルルルルル… ピルル


何もない、平穏な日曜日。買った時から、変えていない無機質の着信音が俺の部屋に鳴り響いたのはつい30分くらい前の事だ。電話の相手は幼なじみの円堂。内容は熱をだしたから助けて欲しいという所。因みにおばさんは今丁度家を空けているらしく、頼る人が俺しかいなかったらしい。全く、あいつらしいといえばあいつらしいのだが。


「えっと、薬は買ったし、水分も買った。林檎とアイスと冷えピタとかも買ったし、これでいいだろ。」


と、いうことで俺は両手にパンパンに膨らんだスーパーの袋を抱え、円堂を助けに、見舞いに行くところだ。足りないものはないか、買ったものを確認し寒空のしたを早い足取りで円堂の家へ向かった。



数十分歩き、円堂の家へ着いた。そして、小さな黒いインターホンを何とか押した。ピンポーンとか、お決まりのチャイム音が鳴り、暫くすると円堂の声が聞こえた。


『風、丸?』
「あぁ。入るぞ。」
『おぉぉー………』


許可が出て、ガチャリと銀のドアノブを右に捻り、俺は中に入った。中に入ると真っ赤な顔をしたパジャマ姿の円堂がフラフラと今にも倒れそうに立っていた。俺は、そんな円堂を見て急いで部屋に連れていきベッドに寝かせた。


「ばか! お前、無理してわざわざ降りて来るなよ。」
「だ、って。じゃないと…風丸、入れない…だろ。」
「返事がなかったら、迷わず入るから安心しろ。」
「……そ、か。」


円堂は電話よりか、遥かに辛そうな声で話している。顔も、林檎のように真っ赤で今にも倒れてしまいそうだ。俺は、はぁ、と溜息を一つ付き、熱は何度あるか聞くと円堂は小さな声では39度と答えた。予想以上の体温に多少驚きながら、俺はそっと円堂の額に冷えピタを貼ってやった。


「ん、…冷たい。」


円堂は、一瞬、体をプルリと震わし慣れて来てから一回にへりと笑った。


「冷えピタだからな。水分は取ったか?」
「ポカリ……2杯…くらい。」
「あほ。もっと、飲め。ポカリ、2g買ってきたから。そのまま飲め。」
「ん。」


ズイッとポカリ1gをそのまま円堂に差し出し、円堂は一瞬驚いた顔でポカリを見たがすぐに手に取り、くつくつと飲み始めた。


「そのほか、欲しいものは? 沢山、買ってきたぞ。」
「ん〜……ない。」


円堂は、眉を潜め、首を左右に少し振った。


「ないっていうことはないだろ?」
「う〜…だって…風丸がいればいいし…」
「………は?」


何を言い出すんだ。円堂は。
どうすればいいのかわからないが、とりあえず、円堂がそうしたいというのなら俺は静かに首を縦に振った。すると、円堂はにっこり笑い


「へへっ! たまには、熱、もいいなっ。」


なんて、言うんだ。
こっちにとっては、全然良くないのに。わざわざ重い荷物を持って見舞いに来て、真っ赤な顔で倒れそうな足付きで迎えに来られて、挙げ句にはこれだ。全然、全く、良くない。なのに、なんでだろう。


「………………たまには、な。」


自然と俺の手は、円堂の熱く熱を放っている手に伸びていた。



End








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