短編 | ナノ



これもまた奇跡




昔、誰かに『奇跡って信じる?』って聞かれたことがある。
その時、俺は『解らない。』と答えた。
だって、その時まで、俺に奇跡なんて、雲の上の存在だったから。
奇跡に出会える事が奇跡、なんてね。

でも、今なら『信じる。』って胸を張って言える気がする。
なぜなら?
なぜなら、アイツと俺の出会いがそれを教えてくれたから。

俺が右と言えば、君は左と言う。
俺が上と言えば、君は下。
俺が赤と言えば、勿論、君は青。

こんな、正反対の俺らが出会い、恋に落ちたこと。
これこそ、奇跡だ。




「あれ? 半田、苺食べないの?」


今日は松野と二人で町外れにある一軒のケーキ屋さんに来ていた。

俺は、真っ赤な苺が乗ったショートケーキを頼み、君はチョコレートケーキを頼んでいた。


「? 食べるよ。」


松野は、フォークを口にブランとぶら下げながら、半分食べてあるショートケーキの脇にちょこんと置いてある苺を指してきた。


「じゃあ、なんで食べないの。」
「え?」


不思議な質問に、少し首を傾げながら漸く理解した。


「最後に食べるんだよ。好きなものは最後に食べるだろ。」
「えぇっ!!? 好きなものは最初だよ!!!」


松野が、この世の終わりだ、とでもいうような顔で俺を見てきた。
なんだか、その顔がムカついた。


「有り得ないのは、松野だろ! なんで最初に食べちゃうんだよ?」
「そんなの、美味しいのは最初に食べたいでしょ!!」
「取っておいて食べるのが美味しいんだよ!」


有り得ない。
なんで、松野は最初に食べてしまうのだろう。
そんなの、後の楽しみがないじゃないか!


「そんなことない!! もう、半田は貧乏性だなぁ。」
「う! うるさい!!」


松野は、あのいつもの小馬鹿にした笑みをうっすら浮かべながら俺を見てきた。
そして、ズイッと顔を近づけてきた。


「!!」
「それにね、半田。」
「な、なに」


俺は少しのけ反る。


カツン


と、同時にお皿の軽やかな金属音がした。


「あ!!!」
「んま〜い」


気づいた時にはもう遅い。


「ほら、こうやって、食べられちゃうよ?」


目の前には、俺の皿の上にあった苺を美味しいそうに頬張る松野が。


「うあーっ!!!!!!! まっ、まつのっ」
「んっふふー♪ おいしー」



目の前には、苺を頬張る君。
ちょっと…いやかなり憎たらしいけど、こうやって、君といる時間が1番幸せなのかもしれない。


「ばか」
「ん? 好き?」


こんな風に思っちゃう自分がいるなんて。
これも、また奇跡なのかな。


「違うっ!!!」




End








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