短編 | ナノ



ラムネソーダ




からんっ


ビー玉が瓶の中で軽やかな音を立てて一回転する。

冬なのに、ラムネを飲む俺は周りからおかしいと言われる。
多分、目の前のあいつも。




「………」


あいつはじっと俺を見てきている。
多分、この季節にラムネソーダを飲んでいることについてあいつも突っ込んでくるのだろう。
俺はそう思い、はぁっ と小さく溜息をつきあいつの方を向き直り、口を開いた。


「ラムネソーダ、好きなんだ。」


先に行っておけば、わざわざ言い訳もしなくてよくなるから。
いつも、こうやって逃げている。
すると、あいつは


「…変じゃないか?」


って、回りと同じように突っ込んできた。


(ほら、やっぱりね。)


「別に、いいだろ? 冬にラムネソーダを飲んだって。」


真剣に俺の間違いを指摘してくるあいつの視線がなんだか、恥ずかしくなって俺はあいつから顔を背けた。


「あぁ…いや、違う。」


すると、横から、くすくすという笑い声。
なんだ。と、思いあいつの方を向くとあいつは目尻をきゅっと細めて笑っていた。


(こんな顔して笑うんだ。)


「ラムネソーダ じゃなくて、ソーダラムネ だろ? って思った。」

「………は?」


まさか、呼び方を指摘されるとは思ってもいなかったから、思わず、あいつの顔を直視してしまった。
あいつはまだ、面白いらしく、くすくすと笑っていたが、俺の視線に気づき目尻に涙をうっすらとためながら


「ソーダラムネ。」


と、俺の持っている瓶を指を指してきた。


「………………………ソーダラムネ って…おかしくないか。」


何を言っていいのか解らなく、ポロリと本音が零れた。


「ラムネソーダ の方がおかしい。」


するとあいつは、ムッと表情を険しくして言い返してきた。
それにつられるように俺も言い返す。


「いやいや、ラムネソーダ だよ。」

「ソーダラムネ だ!!」


バシンッ


いきなり、背中を叩かれた。
何をそんなに………


「風丸!!!!」

「ふあああ!!!!」


目の前の情景がパッと変わったかと思ったら目の前にあいつが立っていた。


「ご 豪炎寺…」

「…何をボーッと立っているんだ、ほら、みんなもう先に行っているぞ。」

「あ あぁ……」


現実に戻された。
叶わないこの気持ちのあまり、夢を見ていただけなのに。


「ほら、行くぞ。」


届かないあいつの背中はスタスタと俺の前を歩きはじめる。


「あ、あぁ…」


夢の中とは真逆の淡々としたつまらないやり取り。
俺が、あの夢の中でみた笑顔を見れる日は多分、来ないだろう。

でも、少しくらいは夢に近づきたい。


「ごっ…豪炎寺!!!」


拳をぎゅっと握る。
うっすら汗ばんでいた。


「ん? なんだ?」

「あっ、あの、さっ!!!!」


心臓が破裂しそうになる。
回りの音は何も聞こえない。
聞こえるのは、自分の心臓の音と、あいつとの距離だけ。


「らっラムネソーダのことっ…!!!!」


ぴたりと前を歩く背中が止まる。
あいつとの距離は、半径あと1歩。


「…ソーダラムネ だろ?」

「!!!!」


時間が止まる。

夢の続きは、ここから、始まる。



End

でも実際、ラムネはラムネって呼ぶんじゃないのか…?












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