短編 | ナノ



イチゴプリン




「えっ?!」


いきなりの電話と、その内容に普段出さないようなところから声が出て、変な声が出た。


『何、今の声。』


電話の主、松野は受話器の向こうからツッコミを入れてくる。
まぁ、そんなどうでもよいやり取りはどうでもよくて。


「えっ…あ…いや、んと、本当?」

『だから、そうだってさっきから言ってんじゃん。』


松野は、呆れ声でそう言ってくるけど、だって、信じられないんだもの。


松野が…熱(因みに37.5℃)を出すなんて。


『……失礼な。』


いきなり、松野からの電話がかかってきたのはほんの2、3分前のこと。
内容は、松野が熱を出したのでイチゴプリンを買ってこい。という
まぁ、パシリ電話だ。
熱が出て気持ちが悪い時にイチゴプリンだなんて甘ったるいもの食べたら余計気持ち悪くなりそうなのに、と思うがそんなこと言ったら怒るだろうから黙って Yes と返す。


『じゃ、よろしくね、プリン。』

「…あっ…ちょ…」


プッ


一方的に電話を切られ、道端で取り残された気分になる。
折角、スポーツショップに行こうと思ったのに。


「はぁ、」


スポーツショップへの道から、近くのコンビニの道へ足を向け、目的を松野のお見舞いに変更した。




ピンポーン…


へとへとになった指で松野ん家のインターフォンを押す。
忘れてた、スポーツショップと松野ん家がちょうど反対方向だったことを。


『ふぁーい、…半田かぁ。』

「よぉ、」


インターフォンからはなぜだか、松野が出て熱じゃないのかよ、とツッコミを入れたくなるが、ここも大人しく待っていると、ガチャリとドアノブがゆっくり回され中から


「あ、買ってきてたんだぁ。」


と、挨拶よりも先に俺が持っているコンビニ袋を気にしている松野が出てきた。




松野の部屋に上がると、起き上がったままの散らかった布団と、乱暴に置かれた体温計、それから飲みっぱなしのアク○リアスが置いてあり、熱出してたんだ、と改めて思う。


「熱、出てたんだな。」

「だからっ!! 言ってんでしょっ!! …うわぁ………」


松野は怒りながら、コンビニ袋をひっくり返す。
中からはゴロゴロと5、6個の色んな種類のイチゴプリンが転がり落ちてきて松野はそれを見てヒいていた。


「…松野がどこの好きなのわかんなかったから…」


流石に俺もこれはヒいたけど、しょうがない。


「僕は、ヤマ○キのが好き…なんだけど。」


と言いながら松野は何やら不気味な顔のイチゴが描いてある不思議なマークのついた明らかにヤ○ザキのではないプリンを手に取った。


「まぁ、いいや。半田の奢りだもんね〜、全部。」

「……有り得ねぇ。」

「へへっ。…でもねぇ…」


ペリリッとプリンの蓋が開く音と、松野はプルッとプリンにスプーンをさした。

そして、


「はいっ、あーん。」


無邪気の笑みのままピンク色をしたプリンを俺に差し出してきた。


「ん? あーん。」


その笑みにつられながら俺も口を半分開けるとぐいっとプリンを口に突っ込まれ、口の中にイチゴの何とも言えない甘ったるい味が広がる。


(不味い…)


その味に眉を顰た。
すると、いきなり、唇にプリンとはまた違った柔らかいものが触れてきた。


「…!!!!」


これは、不意打ちなのだろうか。どうなのかは解らないが、突然のキス。

数秒だけの短いキスだった。


「……半田のイチゴプリンが1番好きっ。」


目の前の松野は、無邪気な笑みでそう呟いた。


「…〜〜〜っ!!!!!!!!!」

「さってとっ、ここのイチゴプリン、不味いから半田にあげる〜。僕はヤマザ○の食べるから。」


耳の先まで真っ赤に染まった俺を松野は無視して、更に無惨にスプーンが刺さったイチゴプリンを俺に差し出し、自分は○マザキの太陽に顔が描いてある不思議なマークのプリンを食べはじめた。


「ふ ふっざけんなっ!!!!」




End












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