短編 | ナノ



甘いあれはこれの味




「半田、」


部活帰り、夕日がもうすぐ沈みそうな時間。
松野はぽつりと俺の名前を呼んだ。


「ん?」


俺はハードな練習でボロボロになった身体をズルズル引きずりながら適当に返事を返した。
松野はその返事が気に入らなかったらしく一瞬眉間に大量の皺を寄せた(めちゃくちゃ怖かった。)がすぐにまた「半田ー」と呼んできた。
多分、2回目の「半田」はちゃんと返事をしろ。という合図だ。


「…ん? 何、松野。」


だから、真面目に返してやった。
すると松野は先ほどのような鬼の形相はしないで、「疲れたー。」と呟いた。
そんな事ならさっきの適当な返事でもいいだろ。と思うがそんな事を言ったらまた鬼の形相をされるからぐっと言葉を飲み込んだ。


「俺も。」


そう短く答えた。



「半田ー、」


すると、また松野は名前を呼んできて


「ちゅーしてもいー?」


と、聞いてきた。


「………はぁっ?!」


あまりにも素っ頓狂な質問だから反応に遅れ、更に変な声が出てしまった。


「いーでしょー?」


松野の言葉は俺の不可抗力を示していたが、俺は反抗し「い や だ。」と答えスタスタと道を歩き始める。


「………………半田っ!!!」


突然松野に呼び止められ、面倒臭そうに振り向くとすぐ後ろに松野がいた。

そして


ちゅっ


俺より背の低い松野は精一杯背伸びをしながら俺に口づけをした。

唇を離した松野は


「充電、かんりょー」


等とにやにや笑いながら硬直した俺をスタスタと置いて先に歩いていった。


「っっっ!!!!! まっ つの!!」


口さえも上手く動かない俺は先を歩く松野に向かって大声で松野の名前を叫ぶ。


「僕に口答えなんかするからでしょー。」

「しなくてもっ するだろっ おっまえはっ!」

「当たり前じゃあーん。」


俺の顔が赤いのは、夕日のせいで
俺の鼓動がいつもより早いのは、練習で疲れたせいで


「でも、」


松野はくるりと俺の方を振り返り、にっこりと可愛く笑った。


「甘かったっ。」


俺の体が異様なまでに熱を発しているのは、


「〜〜〜っ!」


松野の口づけが甘かったせい。



End












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