短編 | ナノ



眼鏡が好きな訳じゃない




放課後の図書室。
目の前に、勉強をしている松野。
松野はいつもと同じ、青とピンクのニット帽を被って、いつもと違う、眼鏡をかけていた。


「…」


俺はその眼鏡松野をじーっと見つめる。
普段、学校では眼鏡なんてかけていないからなんだか新鮮な気がする。
と、松野が俺の視線に気がついたらしい。
「何? わかんないの?」と顔を上げた。


「… 別に。何でも。」


一瞬、ドキリとした。
なぜなら、眼鏡松野を直視してしまったから。
なんだか、眼鏡松野はいつもと別人に見えた。


「ふぅん。… どうしたの、そんなビックリした顔して。」


松野は、ドギマギしている俺を怪訝に見てくる。
あぁ、もう頼むから見ないでくれ、と俺はこちらから松野から視線をずらした。


「別に、変なんかじゃないよ。」

「そう? さっきから僕ばかり見て。」


やばい、気がつかれる。
そう思い勉強を再開する。そんな俺を松野はまだ怪訝そうに見つめ、やがてまたシャーペンを動かし始めた。
しかし、俺はやはり集中出来なくなり、また松野をじーっと見つめる。


「何なの。やっぱり、半田、変だよ?」

「………変、じゃないよ。」


と、まだ嘘をつく俺を松野はじーっと見てきて、はぁと溜息をつきノートに文字を書きながらぽつりと「…あそ。あんまり、見ないでね。集中出来ないから。」と呟いた。


あぁ、もう。
松野はずるい。
眼鏡をかけただけで、こんなにも集中できなくさせるなんて。

俺ははぁと溜息をつき、再びノートに文字を書き始めた。


「…眼鏡、かけてるからでしょ。」


不意に松野はそう呟いた。
俺はビックリして松野を見るが、松野は何事もなかったかのようにノートに向かっていたが、口元はゆるりと緩んでいた。


あーあ、これも作戦か。


「…せこっ。」




End












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