消しゴム がさっ 数学の時間。 筆箱の中を漁る。 (あれ…ない??) 狭い口の中から懸命に手を突っ込んで見るが、中のペンがかちゃかちゃと重なり余計に探しづらい。 (あぁ、もう!!) 中のものを全てを机の上に散らばせるが、捜し物はない。と、同時に赤ペンが1本床に転がっていった。 「あっ…」 急いで取ろうとしたが、ペンに手が届かない。もーっと悪態をつきつつ、席を立とうとした時。 「風丸。ほら、」 下の方から聞き覚えのあり低い声が聞こえた。そちらの方に顔を向け、一瞬息を呑んだ。 「ごう…えんじ…?」 そこには、自分の赤ペンと捜し物をこちらに差し出してくる豪炎寺がいた。 「あと、消しゴムも。ないんだろ?」 豪炎寺の手の中にちょこんと握られたペンと消しゴムを見て顔が赤くなる。 (気づいてたんだ…。) しかも、その消しゴムは『豪』と書かれており自分の元からあった消しゴムを半分に切ったのが分かった。そんな優しさが余計に恥ずかしくなる。 「あ ありがと。」 それだけ伝えると、豪炎寺の手からころりとペンと消しゴムを受け取る。豪炎寺は「あぁ。」と小さく返事をすると何もなかったかのように再度ノートに黒板を写し出した。 僕は、その短い間だか凄く長く感じすぐに体が動かなかった。 (どうしてだろう。) どうして、こんなちょっとした事なのに胸の鼓動が激しく音をたてて動いているのだろうか。 どうして、こんなにも顔は熱を放っているのだろうか。 自分がおかしい。 「……」 俺は、ぎくしゃくした動きで席にちゃんと座り、間違えた文字を消した。 消した指が微かに震えており、ペンを受け取った右手は熱くほてっていた。 手、全体に電気が流れているような感覚。 「………………」 あぁ、これが 恋 というものなのか。 End |