短編 | ナノ



お年賀




「えと…」


12月中旬。
目の前に広がる沢山の葉書と色とりどりのマーカー。
年賀状の季節です。
今年はイナズマジャパンの皆にも送るから去年より多く年賀状を書かなければいけない。
そう、あの人にも。


綱海条介さんにも。


「円堂さんも風丸さんも書いたし、あとは…」


送る人の住所が書かれたメモに目を通す。
書いた人の所には上から斜線が引いてあるのだが、最後の一人、綱海さんのだけはまだ引いてない。
僕はそのメモを見て大きく溜息をついた。


(なんて書けばいいんだろ…。)


これが今の最高で最大の悩み。
どうせ、恋人に出すのだからそれっぽいことでも書けばいいのだが普段が普段だ。
恋人っぽいことなんて、練習の後に一緒に帰るくらいだ。
しかも、手なんか繋げないし。
回りから見れば本当にただの先輩後輩。
その証拠に円堂さんは丸っきり気づいていないし。先週なんか一緒に帰っていいか?なんて聞いてきたし。


「はぁ…」


また、溜息をつく。
普通に明けましておめでとうございます。でいいかな、もう。
いや…それじゃ普通だ。
じゃあ、愛してます。とか?
死んでも書けないな。

僕は握っていたペンを机に投げ出し机に顔をペたりと寝かせる。
目の前には、今年買ってもらったばかりのまだ新しい携帯電話。
何気なくそれを手に取り、受信メールボックスを見返してみる。


「……………」


ほとんどが円堂さんだった。
綱海さんとは連絡事項とかそれくらいしかメールをしていない。


「……はぁあぁ…」


本当になんだか、情けなくなる。
僕らって本当に恋人っぽいこと全然してないなぁって。

僕はパタンっと携帯を閉めた。
そしてペンを取り、残り5枚のうち1枚を取り皆と同じように


『明けましておめでとうございます。』


と書いた。


「……」


なんだか悲しくなって腕に顔を埋めた。
と、その時


ぴる…ぴるるるるる


着信用のメロディが流れだし携帯のディスプレイがカラフルに光だし、あの人の名前を写し出す。


『綱海 条介』


はっと息を呑む。
恐る恐る携帯を手に取り電話のボタンを押した。
ピッと情けない電子音が部屋に響く。


「も もしもし…?」


声が上擦っている。


『……………立向居?』


受話器の向こうから確かに、綱海さんの、愛しい人の声が聞こえた。

涙が出そう。


「は はい。綱海さん? どうか…しましたか?」


電話だと綱海さんが今、どんな表情をしているのがか解らないから余計に不安が胸を過ぎる。


『あぁ。元気そうだなっ。』


受話器から かっかっかっ と得意の笑い声が零れる。


「はい。何よりで。」

『はは。あ、ところで俺、今年賀状書いてるんだよ。』


はっとした。


『でさ、お前になんて書いていいか解らなくてさ。お前に聞くのも変だけどこれしか思い付かなくて…』


知らない間に目から涙が溢れていて、

あぁ こうすればよかったんだ。

と思う反面、綱海さんがとても馬鹿に見えて。
ぐちゃぐちゃになった。


「………馬鹿…」

『馬鹿??』

「馬鹿ですねぇ ほんっとに…。」

『えぇっ??!』


受話器からは驚いたあなたの声。


「……そうですね、」


最初から、こうすれば、よかった。


『ん?』


優しい、あなたの声。
大好き。離したくない。

だから


「ずっと、一緒にいてください。」


そう、答えると向こうから優しい低い声で


『あぁ。了解。』


と、返してくれた。





End












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