短編 | ナノ



15せんち




なぁ、風介。知っている?
恋人たちの距離って15pなんだって。

笑ってしまうね。




「…っく…ひっく……」


夜9時。
あいつの部屋の前。
俺、南雲晴矢は頭を抱えながら座っていた。
ただ、目の前に広がる茶色の木製の床をじっと見つめている。


「………」

「……ひぐ…ふっ…うぁ…ぁん…」


扉の向こうから聞こえるのは風介の泣き声。

また、今夜も独りであいつは泣いているんだ。

声を押し殺して。

伝わることのない悲しい気持ちを殺すかのようにあいつは泣いているんだ。


「…………っ」


俺はその声に表情を歪め、腕の中に顔を埋めた。自分からも今にも涙が零れそうになったから。


知っているよ。

あいつが何故あんなにも悲しく泣くのか。

全部俺が悪いんだ。

あいつの気持ちを受け入れられない俺が悪いんだ。

でも、怖いんだ。

もし、このままあいつの気持ちを受け入れてしまって 今のこの関係が壊れてしまうのが。
何もかもが全て変わってしまいそうで怖いんだ…。


「……………」


ふと、自分を照らす一筋の光に気づく。顔を上げてみると紺色の夜空にぽっかりと黄色い月が浮かんでいた。その優しい光に目を細める。今にも吸い込まれそうなくらい月は綺麗だった。

あいつも今、この月を眺めているのだろうか。

扉の向こうからはいつの間にか泣き声は止み、俺たちのいる空間はしぃんと静寂が訪れた。まるで、そこだけ時間がぴたりと止まったように静かだった。差し込んでくる月の光だけが何光年の距離を移動している。

前、聞いたことがある。

『月は地球の衛星なんだよ。』
『ずっと、地球の周りをぐるぐる回っているんだ。』
『ってことはさ、月は宇宙の星の中で1番地球に近いのかな?』


その話が本当なら、俺たちはまるで、月と地球みたいだ。
1番、近いのに実は何万キロも離れている。


俺はあいつの月で
あいつが俺の月。


どうしてこんな切ない距離なんだろう。
全く、恋人たちの距離なんて言っている場合ではない。
15pとはあまりも近すぎる。

そう、思うと悲しいはずなのに何故か笑みが零れた。
あいつも同じことを思ったのか、扉の向こうからパンッと頬を叩く音が聞こえた。


「……」


ほら、その頬を叩く音でまた時間が動き始めた。

俺は扉の前から立ち上がり、扉に可愛らしい文字でかかれた『ふーすけ』と書かれたネームプレートを見る。


『まるで、僕らみたいだね!!』




End











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