SSS | ナノ
守ってあげる(うたプリ)


(薫翔)


ダンッ…
隣の部屋から壁を力強く殴りつける打撃音が聞こえた。驚いて音の正体がいる部屋に駆け込んでみるとそこには肩で荒々しく息をしている翔ちゃんがいた。
「ちく…しょぉ…」
翔ちゃんの細い肩は小刻みに震えており、息は荒々しく吐いた所為か苦しそうだ。僕はハッと息を呑み翔ちゃんの下へ急いだ。
「翔ちゃん?翔ちゃん大丈夫?」
ゆっくり背中をさすってやると翔ちゃんの息遣いも段々優しくなってきて、落ち着きを取り戻したのか背中をさすっていない方の僕の手をぎゅっと握りしめてくる。僕もそれに答えるように色白の彼の手を握りかえした。
「薫、薫…。薫…」
翔ちゃんはぼんやりと僕の名前を呟いている。「何?」と優しく聞くとより一層僕の手を強く握りしめて蚊の鳴くような声でポツリと呟いた。
「どうしよう、俺…。歌えねぇ…」
『歌えない』
それは今まで歌を愛し続けてきた翔ちゃんにとっては自分を無くすのと同じ事だ。歌うのを止めれば翔ちゃんは空っぽになってしまう。それなのに、何故。僕の手の平も翔ちゃんの不安が伝染したように震えはじめた。
「思うように、歌えねぇんだ… 声、出そうと思っても、出ない…」
翔ちゃんの瞳から涙が一粒、一粒ゆっくり零れ落ちてくる。それはまるで今、翔ちゃんの中をぐるぐるぐるぐると廻っている不安や焦心、絶望が具現化したように冷たかった。
「どうしよう、薫… 俺、歌えなくなっちまうのかな… 薫…嫌だ…そんなの…… 嫌だ……」
最後に翔ちゃんが吐き出した「嫌だ」という詞と共に冷たいそれが僕の手の平に落ちた。
「翔、ちゃん…」
僕は静かに涙を零す翔ちゃんをそっと抱きしめた。細い身体はスッポリと僕の中に収まる。小さい頃は僕の方が小柄だったのに。いつの間にかにこんなに小さくなってしまったんだい、君は。それなのに、どれだけの不安を背負っているんだい。
「大丈夫、大丈夫だよ。」
あの日、誓ったじゃないか。
「僕らは、二人で一つだから…」
『二人で一つ』
僕らはどちらかが居失くなっては生きていけない。
だから、その不安を僕にも分けて。
君だけを悲しませるような事はしないよ。
嬉しさは2倍、悲しさは半分こ。

「僕が、守ってあげるから…」




いつかそれは兄弟愛を越えるんだ…


End



追記





<<
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -