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籠の鳥(マギ)


(夏黄文×紅玉)


夜、私は一人窓辺からただ広い煌帝国を見下ろしていた。
王宮の外の人間たちはみな、楽しそうに自由に動き、そして生きている。
私とは大違いだ。私は民たちの様に自由に動き回ることも生きることも許されない。何時だってお父様の言われるがまま、王宮に閉じ込められている。
明日だって、……
「はぁ…。」
私は大きく溜息をついた。それに気付いたのか夏黄文が心配そうな顔つきで私の元へやって来た。
「如何なさいましたか、姫君。」
「…夏黄文。…ねえ、」
夏黄文は何時ものように私に手を差し出す。私はその手を握りしめながらフカフカの椅子に腰をかけた。
「何でしょう。…姫君?」
「お願い。今日だけよ。」
何時ものような君主と従者の一連の行動。しかし今日だけは、私は差し出された夏黄文の手を握りしめたまま離さなかった。
「姫君…」
「…いよいよ明日ね。私の…政略結婚…」
自然と夏黄文の手を握っている手が震えていた。
本当は怖いの。怖くて堪らない。顔も見たことない人とこれから一生を共にしていくだなんて。それに後悔も、ある。
「あのね、夏黄文…」
目頭がじわりと熱くなるのを感じた。こんな感覚もう何年も体験していなかった気がする。
「姫、君。」
「私、ね、私…。」
堪えきれなかった涙たちが震える私の手と夏黄文の手にパタパタと零れ落ちた。
あれ、私、どうしちゃったのかしら。昨日までは我慢出来たのに。之が私の宿命なんだって思えたのに……。
「恋が、したかった…」
「…っ、」
「普通の、生きていれば普通に出来ていた筈の恋がしたかった。恋がしたかった。恋が…したかったわよぅ…」
こんなこと言ったってどうしようもないことくらい解っている筈なのに。一度口から出してしまうとこんなにも止まらないものなのね。
私の口からは叶わない願いが次から次へと詞になって、泪になって二人の手の上に堕ちて云った。
「姫君。」
「夏黄、文?」
夏黄文が握られた私の手をぐいっと引っ張った。その反動で私はヨロヨロしながらも椅子から立ち上がった。私は不思議に夏黄文を見つめる。その時の夏黄文の瞳を見てドクンと胸が一回鳴った。

神様、お願い

「行きましょう、共に。」

私を幸せにして。
普通の女の子にして。

「恋がしたいのでしょう?貴は。」
「夏黄文、何を言っているの…?」

握られた手が熱い。
夏黄文は引き攣り笑いをしている私に向かって何時もの、何時もの以上の優しい微笑みをしながら頷く。
籠の扉が開く快音がした。

「姫君。これが、駆け落ちというやつです。」

籠の鳥に恋を教えて―――――。




End




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