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巡る巡る星を両手に


「…。」


最近いつも病室の窓際に置いてある一枚の白い封筒。
僕はそれを手にとり慣れた手つきでベッドの隣の引き出しを開いた。引き出しは鈍い音を経てて己の中身を明らかにする。


「きゅうじゅうきゅう…枚目。」


引き出しの中は、一面の白と丁寧に毛筆でかかれた僕の名前。漣 零 サザナミレイ。
中身には沢山の僕が写った写真と沢山の愛の言葉。

最近僕にかの有名なストーカーというものが出来た。
ストーカーと聞けば大抵の人は嫌な顔をするだろう。それはそうだ。だってストーカーなんて怖いし気持ち悪いし。でも僕は違う。僕は引き出しの中にどんどん溜まっていく白い手紙が大好きだ。僕に毎日毎日手紙をくれるストーカーさんが大好きだ。

小さい頃から病弱で友達も少なかった僕。だからかもしれない。こんな誰が書いたのかもわからない得体の知らない手紙だけど、届いた時凄い嬉しかったんだ。
僕に初めて友達が出来たような気がしたんだ。


「ストーカー、さん?」


僕はあなたにすごく感謝をしているよ。


「聞こえないかもしれないけど、あのね。」


ずっとずっと病室で過ごしてきた僕に届いた一枚の手紙の中にはこの世界の楽しさがたくさん書いてあった。
きっと僕が病室から出れないってことを知っていたんだね。


「ストーカーさんのおかげですっごく楽しかったよ。」


僕の病気はもうきっと治らない。
けれど病気の進行スピードは早くなっていくばかりだ。
今はもう足を動かすことだって出来ない。


「余命3ヶ月って言われてから毎日くれたよね、お手紙。」


優しい風がさあっ、と病室に入り込んできた。


「僕ね、最初は早く死にたかった。なあんにも出来ないこんな体、だいっ嫌いだったんだ。」


大嫌いだったんだ。こんな体。
けれど、あなたは僕を好きだと言ってくれた。愛してるって言ってくれた。
お母さんでもお父さんでもないあなたが。友達なんか出来たことのない僕を好きだと言ってくれた。


「ストーカーさんのおかげで少しは好きになれたかもしれない。でも、だからかな。」


不思議と涙は出なかった。


「今は、まだ死にたくないよ…。あなたの手紙を、まだもらっていたい…」


何となくは感じていたんだ。
もうすぐ長い長い眠りが僕を迎えにくるのを。


「でも、やっぱりダメみたい。」


息が苦しくなる。
目の前がグルグル、グルグル。


「、ストーカー、さん。…ありがとう、…」


誰かがナースコールを押す音がした。
遠くの方から看護婦さんの大きい声と担架のタイヤが走る音が聞こえる。

それから、病室の窓際で誰かが泣いていた、気がしたんだ。


「…………、」


僕のストーカーさんは、凄い謙虚なストーカーさんで。
余命3ヶ月って言われた時から欠かさず毎日手紙をくれた。
内容は、僕は君を愛してるから君はもう僕のものだよ、まで様々だ。
それでも最後には必ずと言っていい程、絶対治るからね、と書いてあった。

ごめんね、謙虚なストーカーさん。
ありがとう、謙虚な僕の友達。






追記





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