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溺れる




周りから期待されてされてされてされて、そして、裏切った僕の物語。


まだ僕が若かった頃。って言ったら君は『まだ君も若いよ』なんて言うのだけれどとりあえずまだ僕が若かった頃。
周りからの僕への期待は大きかった。事あるごとに賞賛され、まるで宝石をみるような視線を身体一杯で感じ取れた。世界は僕を中心に廻っているんじゃなかろうかと錯覚してしまう程に。いや、実際そうだったのかもしれない。僕は中心に立っていた。周りは僕を中心として僕の回りをぐるぐると回っていた。あの頃は(なんて言うと君はまた笑うのだろう?)唯々楽しかった眩しかった輝いていた僕の視界に映る何もかもが。

けれど、何時からだろう。
耀いていた視界がくすんできたのは。

気が付いたら僕の手元からは栄光も期待も輝きも総て亡くなっていた。栄光は過去の栄光と成り果て期待は裏切りに輝きは不安にすっかりと形を変えてしまっていた。
それからだった。
最初は何と無くでしか感じていなかった。けれどいつの間にかに僕は取り込まれていた。世間からの見放しに。
其れだけでも苦しかったのに期待を裏切るという重罪を起こした僕には更なる苦しみが襲った。

世間は僕から手をハナシテクレナイノダ。

どうせ見放すなら完璧に見放してほしかった。

お前なんか要らない、役立たずなんだと言ってほしかった。

裏切り者に優しくしないでほしかった。

僕のソンザイを消してほしかった。

どうすればいいのか解らないんだ。
僕はどうすればいいんだ。
頑張ればいいのか?
頑張ったらまた昔のようになれるのだろうか?
でも頑張るって何を頑張ればいいんだ?
僕にもうそんな気力は残ってはいないんだ。
今の僕には僕が立っていた場所にまた新たに立っている君を見ていることしか出来ないんだ。

ねえ、ねえ、

いつの間にかに僕は取り込まれていたんだね。

ズズズ、と黒が僕の足元を覆い始める。そして足元が完全な黒に染められたのならそれは次にごぼごぼと水素と酸素で出来た液体に変化していった。それからは簡単だ。ゆっくりゆっくり水位をあげていく。ちゃぽんと黒い液体は僕を取り込んだ。がふっ、と息をするとそれみよがしに液体は僕の身体に入っていく。それは驚くほど苦しかった。泣きたくなった。でも泣いたらまた液体は僕の身体に入るんだ。僕はもがいた。もがいてもがいてもがき苦しんで。
そして知った。
これが裏切る事なんだと。
遠くの方に君が笑っているのが見えた。


「さよなら」


嗚呼、それが聞きたかったんだ、と。












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