ゆめまぼろし
「早く、逃げて」
そういう君は真っ青になった手で俺の頬を撫でた。撫でられた頬はなぜか暖かい。俺はただ、ただ、無言で頷き、血だらけになったその場から逃げたしだ。
ごめん ごめん ごめん
いくら許しを請っても頬についた血は俺を許してはくれない。
「はあっ、はあっ、はあっ…」
地面を蹴る足がフラフラと縺れ合う。ぐしゃっ、と音と共に汚い泥が俺の咥内をぐちゃぐちゃに混ざる。苦い、苦いなあ。
「うっ…うっ…ふっはっ…うぅ…」
ただでさえぐちゃぐちゃの地面なのに涙なんか流したら余計にぐちゃぐちゃになっちゃうじゃないか。止まっておくれよ。
「うあああ…うああああああああ」
涙と俺の頬についた君の血が混ざりあって泥を汚していく。でもどんなに血を流したってその汚れが堕ちることはないのだろう。
「うわあああああああああ」
君にとって俺が生きていることが最大の幸せならば、俺にとって君が生きていることが最大の幸せだったんだ。
さよなら。
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