見て見ぬフリ
ざわざわざわ… ざわざわざわ…
今日も駅構内は騒がしい。
「…」
そんな駅構内を俺は耳にイヤホンをブッ差しながら歩いていた。前から来る人間が今はただの障害物にしか見えない。邪魔くさい。と、その時俺の目に有るものが入り込んだ。
「え、」
人が沢山歩いている駅構内にぽつんと誰も歩こうとしない空間があった。自然に俺の目線はその空間に釘付けになっていた。そして足がその空間の隣に来た瞬間。
ゴクリと生唾を飲み込み、目を疑った。
「…、」
ぽつんとした空間に小さな男の子どもが倒れていた。いや、寝ているのだろうか。そう思わせる様にその子どもは静かに倒れていた。俺は視線だけでその子どもの親らしき姿を探してみたが周りにいるのは年の食った女とその子どもを見もしないリーマンたちばかり。まるで親らしき姿は見えない。
どうしよう、そう思った瞬間、駅に備え付けられている時計が目に入った。
「…!!」
俺が乗り継ぐ電車の出る時間まであと3分。子どもを起こしあげ駅員のところまで連れていく余裕なんて俺にはない。
俺は子どもの先に足を進めた。
「…っ…」
しかしやはり気になって後ろを振り向いた。あの空間から子どもの足だけが見えた。
ドクン、と心臓が大きく跳ねる。
無視しよう、俺には関係ない。そう思おうと足を進めた瞬間、後ろから大きな女の悲鳴が聞こえた。「どうしよう、この子…!! 誰か、誰か!!」
俺の心臓がドクン、とまた大きく、大きく跳ねた。
呼吸も荒くなってくる。
時計は残り2分を差していた。
ごめんなさい、と呟いた。
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